守ろうって決めたんだ。



von voyage
=彼の決意・前=



『頼んだぞ。彼らの手助けをしにいっておくれ末神。』


そう言った創造主の声と共に吹いた突風。
威と離され過去の出来事とデジャブを感じながら落ちた意識。
次に目を覚ました時…



「さて、洗濯物はこれで完了かな?」

―俺は違う世界にいた。



そこは俺が一応治めていたらしいあの世界とは違う世界。
威達と住んでいたマンションとは違う、一軒家の庭先で俺は洗濯物を干していた。
……俺が神様だってありえないと自分で思う光景だ。


『相変わらず神様と程遠い姿だねぇ。』
「あ、はづっちゃんだ。」


何もないところから聞こえた声。
それは時空管理局、管理問題処理班のはづっちゃんこと葉月ちゃんの声。
時空管理局って言うのは時空や世界に乱れがないかを探っててはづっちゃんはその問題を解決する課にいるらしい。
この世界にきたときに知ったんだけど、なんだかお役所業務だなって思うと同時にその世界の神様なにもしないのかなって思ったんだけど…
はづっちゃん曰く、他の神様は天空に住んでて下界の細かい所までは直接干渉する力はないんだってさ(神様って意外に役立たず?)
で、神様のくせに下界で暮しちゃって直接干渉できる俺に白羽の矢が立ったわけで…事前にもっと説明して欲しかった。
ちなみにはづっちゃんの役目はそんな俺のサポーターだったりする。


『葉月だよ。なぜ無理に略す。』
「あ〜う〜……なんとなくかな?一度呼ぶとなかなか修正できなくてさ。」
『まぁ、こっちもいい加減慣れたけどさぁ。』
「なんか、ごめん(汗)」


はづっちゃんは声が聞こえても姿は見えない。
なんでも時空管理局の規則らしくて俺がこの世界に来た時もその後も一度も会ってない。
ただ戸惑う俺に色々良くしてくれて良い人だとは思う。


『神様が謝らないでよ…まぁ、らしいけれど。』
「俺って神様って自覚あんまりないからねぇ。」
『だろうね。来れるくせに天界に見向きもせずに下界で労働して生きてるからね。この―"末神"様は。』
「…その呼び名やめてよ。なんか嫌だ。」


"末神"…それは天界で俺をさす言葉らしい。
一番最後に出来た神って事で言ってることわかるんだけれど、俺の名はたった一つだから。
今はもう帰れない世界で人だった頃に親がくれた名前…俺を示す名はそれだけあれば良い。
それを知っているからはづっちゃんは普段は俺を名前で呼んでくれる。
たまにふとした時に使うけど、あくまでそれは会話の流れだ。


『はいはい、ごめんなさい。それよりそっちの首尾はどう?』
「あぁ、上々かな?今は問題なし。」
『そっか、ならいいけど…しかし、最初からこんな長期任務なんて創造主も神使い荒いわね。』
「あの人、最初からそうだから。でも、確かに…もう十七年も経つんだよね。」


そうあの日から十七年前…この世界に来た日の事を思い出す。
突風によりまたしても創造主のじぃちゃんにより異世界に飛ばされた俺。
しかも、今回は一人な上に…



『なんだこれ!?』

体が縮んでた。



多分、5歳ぐらいだったんじゃないかなぁ?本気でびびった。
だって、俺気を失う前まで確かに成人してたんだよ?それが突然子供って…知らない銀の首輪してるしさ。
そんな困惑する俺を助けてくれて現状説明をしてくれたのははづっちゃん。
そして、行き場のない俺を拾ってくれたのはこの世界のある夫婦だった。


「行き場のない俺を養子にして置いてくれるだなんて…おじさんおばさんにはほんと感謝だよね。」
『えぇ、一応主要人物と接点持たせる為に合わせる筈だったけどまさかそこまでされるとは予想外だったわ。』
「おかげで俺、のんちゃんの義兄だし?」


その夫婦の姓は"春日"でのんちゃんはその娘で名前は"望美"。
俺が夫婦に拾われた年に生まれた子で、薄紫の髪の可愛い女の子で…



「未来の白龍の神子様のさ。」

―白龍の神子になる宿命を背負った子。



俺が強制的に送られた世界。
それはあのかの有名な乙女ゲー『遥かなる時の中で3』の世界だった。
…いや、俺の治める世界はBLEACH=マンガの世界なんだからゲームな世界もそりゃあるよね。
ただ話の数年前にトリップすることになるとは思わなかっただけで…子供の姿で…


「ま、おかげで守りやすかったけどね。」
『そうね。おかげで何回か危ないところも助かったし、結果オーライ?』


俺のこの世界での任務は『謎の悪しき者から龍神の神子と八葉を守る』事。
最初はなんで子供に!?って思ってたんだけど、一応のんちゃんたちの近くで同じように過ごして守るためだったらしい。
実際なにか悪いものが幼いのんちゃんや隣の有川兄弟を襲ってきたことはあったしね。
それでも、やっぱり児童虐待とか訴えたい気分にはなったけど。


「確かにオーライだよね…元凶未だに不明だけどさ。」


でも、『悪しきもの』とやらの正体は未だにわからない。
何度かそれっぽいのが来た時はあるけど、思念体みたいので詳しいことは読み取れなかった。
って言うか、のんちゃん達に害を与えに来たと言うよりどちらかと言えば様子をみに来た偵察っぽかった気がする。
もうのんちゃんは高校二年生で神子に選ばれる年…そろそろ本格的に動き出すだろうな。
つまりは俺も付いて行かなきゃいけないって事で戦場は怖いけど…





「でも、のんちゃんも譲も臣も良い子だし…俺、おかげで頑張れそうだわ。色々。」

それで大切な者守れるなら全然平気だ。





十七年一緒に過ごしてきた大切な妹分と弟分たち。
仮初だと知っていても確かに共に過ごした時間があってそれはあの子達の存在を俺の中で大きくした。
傷つく未来があると知っているし、苦しい未来も知っているけれど…幸福な未来を掴み取る力もあるとわかってるから。
それを壊そうとする第三者の介入から俺は守ろうじゃないか…
この"神の力"とやらを使ってさ。


『世界より一緒に過ごした子供達?物凄い公私混同。』
「公私混同上等…俺はね。大切な者を守るためだけに神様やってるんだよ。」


俺の首には制約の首輪。
大きすぎる力を抑えるためのもので、そんな俺が出来ることってどんなことかわからない。
それでも俺は俺に出来ることを精一杯しようと思う。
…俺がこの世界から消えるまで。


『成る程、ある意味潔いわね。じゃ、その公私混同の為に言っておくけどたぶん選ばれるのは今日よ。』
「そうなの?そりゃ、ちょうどいいかも。」


―そろそろかと思ってたけど今日なんだ。
そんな事を思いながらはづっちゃんの言葉に俺は台所に置かれたままの包みを手に取る。
可愛い淡い桜色で花びら模様のそれは可愛い妹君の忘れ物でちょうど届けようと思っていたもの。
学校に行くにはちょうどいい口実だ。


「時間的に間に合うかなぁ?」
『さぁ?行けなくてもは飛べるからいいんじゃない?』
「あ、そっか…」


はづっちゃんとそんな事を話しながら俺は準備をして家を出る。
向こうにどれぐらい時間がこの家で経つのかわからないけど、置手紙はしなかった。
だって、次に俺がここに来るかはわからないから…


『じゃ、健闘を祈るわ。』
「了解…はづっちゃんありがとう。」


この任務の終わりは別れだ。
それでも俺はそれまで守るから。君達のこと守るから。
このもてる力全て使って守るよ。


(だから、もうちょっと帰れないや。威…)


でも、その終わりがいつかはわからないから…
きっと俺の帰りを待っているだろう、年下になった親友に心の中で謝った。
本人に言ったら『謝る以前にさっさと終わらせろ!』って言うんだろうけどさ。
俺は誤ることしか出来ない奴だから…ごめん。



「さ、頑張ってみようかな。」



この世界を救いたい理由なんてシンプルで…
大切な人達を守りたいから、その為になら俺は世界だって救ってみせるよ。
だって、そうするだけの力を一応俺は持ってるらしいしね。



理由なんて些細なことで"大切だから絶対守る"―それが俺の勝手に誓った決意。



十七年間住んだ家を出て向かうは学校。
大切な者達がいる始まりの場所へ俺は急いだ。



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2006/10/2
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