「やい!また今日も一緒かよ…って、蘭丸を無視するなっ!!」

いつもうるさい隣に住む幼馴染のアイツ。
なんだかんだと突っかかってくるけど、それがオレたちにとっては普通なんだ。
出会ってから互いに口を開けば喧嘩ばっかり。
……今更素直になれるわけねぇじゃんか…



『A finger to intertwine』



すたすたすた……

「待てってばっ!こらっ、無視するなぁっ!!」

そんな叫びも無視してたら、バタバタバタッと音がしてしゅっと視界に入ってくるもの。
それは紛れもなくアイツの影。(というかここにはオレとコイツしかいない)
前に立たれたら横に方向転換すればいいだけなのに――

っ!よくもこの蘭丸を無視してくれたな?!
 今日こそに勝ってやるんだからなっ!!」

こんな挑発受けたら乗るしかねぇじゃんか。
もともと短気なオレがここまで持ったんだ、もうそろそろもう1発出したって誰も怒りゃしないだろ。

「ったく、蘭丸が五月蝿いからだろ!?
 その口少し塞ぎやがれ!!」

とまぁ口でこう言って、手は思いっきり蘭丸の頭を叩いてやった。
ま、蘭丸が手を出してきてもオレは受け止める自信あるし?

「いてっ!くっそぉ…ちょっとばかり蘭丸より背が大きいからって、すぐ手を上げやがって!
 あーもう、なんかに会うから信長様との約束に間に合わないじゃんかっ!」

………………ちょっと待て。
コイツの約束に間に合わない理由がオレだって!?
ふざけんなよっ!オレだって蘭丸なんかに会わなきゃ、気分よくバイトに出られたってのに!
何でもかんでもオレの所為にすんじゃねぇっての!

「オレだって約束に遅れるじゃねぇか!
 たく…今日は余裕持って出たのに台無しじゃん…」

怒鳴って時計を見たら、バイトの時間まで後20分。
走れば間に合うけどこんな気持ちで走ったって後味悪いだけだしな。
それにこれ以上蘭丸なんかに構ってる場合でもないし、この場はさっさと去るに限るな。
…でも、イライラしてるのにどこか引っかかりがあるのは何でだろ?

「調子狂うなぁ…」

オレ自身も理由は分からない。
けど、いつもならこのまま蘭丸を放っておくんだけど、今日だけはそれはダメな気がしてならない。
数歩歩いたところで振り返れば、まだあの場所で立ち止まってる蘭丸の姿。

(ホントは…ホントはこんなこと、するつもりなんてなかったんだからなっ!)

オレは足早に駆け寄って息を吐く。
蘭丸に文句言われるんだろうと思ってたら一切なくて、逆に小さな嗚咽が聞こえて。
泣いてんのかと思って覗き込んだら、案の定泣いてやがる。

「…っく…えぐ…、の…バカぁ……阿呆、まぬけ…とんちんかんに木偶のぼう…」

…………………嗚咽以外はそっくりそのままお前に還してやる。
そう思って口を開きかけて、聞こえちゃったんだよなぁ…



「…………ずっと…蘭丸の、傍に……いろよ…」



…これが蘭丸の本音なんだろうなって。
口調はちょっと気にいらねぇけど、コイツにしてみれば最上級の甘え方なんじゃないかって。
多分オレがすぐ近くにいるのも知らないで言ってるんだろうと思う。
こんな弱気な蘭丸に突っかかってこうなんて思いもしないし、蘭丸の本音も聞けたし?
ちょっとぐらい甘えさせてやるか、って思ってだらんとしている方の手を取って。
その手を開かせてオレの手を合わせ、ゆっくりと指を絡ませる。

「…………行くぞ?約束遅れんの、イヤなんだろ?」

それへの答えはなくて、その代わりにちょっとだけ強く握り返された手。
何となくだけど、今日の蘭丸の違和感が分かった気がする。

(最近ロクに顔合わせてなかったからな。…蘭丸にも寂しいってことあったんだな。)

もうちょっとすればまた悪態つくんだろうけど、今日ぐらい黙って聞いてやるか。
オレの堪忍袋の緒が切れるまではの話だけどな。



...end
inserted by FC2 system