私たちが忠誠を誓うのはただ1人。
〜貴方の為に〜
<の部下の場合>
「た、大将自ら先陣をきるなど……」
「あら?今までもそうやってきたじゃない。何を今更!」
拠点とする安土城の一角で揉める声。
揉める、というよりは男の方がおろおろしていると言った方が正しいだろうか。
「今と前では貴方様のお立場が違うのです!何卒理解していただきとうございます!」
「私が大将であることは重々承知してるわ。けど、後ろでじっとしてて只指示を出すだけってのがイヤなの!!」
いきなり振り返り、腰に手を当てた状態で思いっきり叫び、不機嫌を足音で表すかのように自室へと戻っていく。
そんな後姿に彼は肩をガックリと落とすほどの溜息をつきながらその場をあとにする。
上司にはこう報告せねばならないだろう――『今日も説得は無理でした』と。
その頃、自室のは……自身の愛銃を磨いていた。
部屋の前を通りかかった者がその場を駆け出してまで逃げたいくらいぶつぶつ声を出しながら、だ。
「全く…何処の法にも『大将自ら先陣切っちゃダメ』なんてこと書いてないじゃない!
そりゃあ私はここの城主で、戦になれば大将だし、後ろにいなきゃいけないのは分かってるわよ。
……………でもでもっ!前に出るのが私なんだもん…兵の士気にだってかかわるんだから!!」
だんっ、と銃ごと畳に勢いよく手をつく。
まぁの言うことは間違ってはいないのだが……仮にも安土城城主。
立場を弁えなければいけないところが、彼女の性格上辛いところだ。
「はぁ……こんなところで沈んでる場合じゃないわよね。
とっとと作戦会議の場で、私が絶対先陣切るって公約とりつけておかなきゃ!」
そうと決まれば、と部屋を後にして会議を開いているであろう部屋を目指し全力疾走する。
当然その公約は却下されるのだが、戦場ではそんなことが通用するはずがなく。
――でもそれが兵を活気付けているのも現実で。
「無茶をなされてもそれがよい結果に繋がるのならば、私らは貴方に絶対の忠誠を誓いましょう。」
それは絶対に見えない、主と部下の絆。
<の部下の場合>
「様、ここはどのように攻めればよいのでしょうか?」
「あぁ、それは…ここに小さな道があるから、そこを利用して……」
安土城のとある作戦会議室。
ここではを中心に次に攻める地の戦略を練っている真っ最中。
そんな重要な話をしているときにが「どの戦でも私が先陣切るからね!」と戸を開け様に言うものだから、皆一様に呆気にとられてしまって。
その中で唯一だけが冷静に判断を下し、はむすっと膨れて部屋を後にしたのだが。
「すまないな。本当はが出なければいけないのだが……」
深々と頭を下げるに対し、周りの人間が慌て始める。
もそうなのだが、ここにいるも城主なのだ。
そのような身分の高い者が深々と頭を垂れる等、本来あってはならないこと。
なのに、はずっと頭を下げたまま。
「い、いえ!様が悪いわけではありませんし……」
どう取り繕えばいいものかと悩む家臣たち。
けれどこの先どうやって切り抜ければいいかなど、誰も思いつかず。
―――そんな折。
「報告します!四国にて海賊の…長曾我部の家紋の旗がこちらに押し寄せてきているとのことにございます!」
会議場に持ち込まれた報告によって、以外の臣は動揺しだす。
一気に緊張する場だが、はいつもの淡々とした口調で指示を出した。
「ふむ…。ならば、動ける隊を3、4用意し、城門にて待機。
にも報告し、準備するよう伝えてくれ。」
「はっ!」
場を後にした兵を余所に、家臣たちはをじっと見つめる。
は一瞥した後、「俺も出立の準備に行く。城のことは頼んだぞ?」と部屋を後にした。
「流石は様。いつもながら早いご決断だ。
戦での死傷者も最低限であるし、我らにとってはなくてはならぬ主だな。」
「うむ!様も私らに信頼を置かれておられる。
ならば、私共は様へ絶対の忠誠を誓おうではないか!!」
そう家臣の1人が言えば、ざわめいていた他の者たちも一斉に頷く。
たとえ自身が死しても主を守ろうという決意に他ならない。
...end(好きシーンで30のお題・24忠誠を誓う)