私…初めて、家族以外でキスをして……
初めて、家族以外からキスをされました…。



〜口付けを落とす〜



水族館に入って親子ラッコを見た途端、私は母さんが懐かしくなった。
あんなふうに、完全に血の繋がった者同士で触れ合うことは、もう私には出来ないから。
滅多に人前では見せない弱さを、初めて見せちゃいました。
……こんなつもりじゃなかったんだけどね。

でも…なんだか竹中さんの様子がおかしいの。
いつもどおり笑ってるんだけど……その…何か『許さない』みたいな感じ。



『先日、さんは一緒にいた方にキスをしてましたよね?…あれってどういうことなんですか?』

そう言われて、思い当たる節があった…













確か私、火・水・木と香奈・亜由・真由と腐れ縁の男友達含めて遊びに行ったんだっけ。
それはボウリングだったりゲーセンだったりカラオケだったんだけど。
で、今週に限って何でか『賭け』になったんだっけ。

「そういや砂城…いや、今は伊達だったな。」

「やーねぇ裕樹!もう何年も一緒の腐れ縁じゃない!別に下の名前で呼べばいーじゃない。」

「この年で下の名前で呼んでたら、俺ら恋人になるぞ?」

「え…そりゃ困るわね。」

うん、困る。
私の恋人は同人誌しか頭にない、私の素敵なこの脳だもん。
だから、『このままでいい』って言おうとしたら、

「っつうと、伊達ってまだキスとかしたことないわけだ?」

「え?まぁ、家族間で額ならしたりされたりはあるけど。」

「じゃ決まりだな。次の賭けは、伊達のキス争奪戦ってことでよ。」

「は?ちょ、ちょっと待ってよ?!
 私、誰にもあげないって決めてるんだから!!」







私は、自分のファーストキスを死守するべく、戦ったけど……負けました。
そのあと、真由が「オレがリベンジさせてもらうぜ!」って、裕樹とゲームをし始めたんだけど。
うぅ……こんなことなら、さっさと済ませておくんだったわ、ファーストキス。

「うっし!俺の勝ちだな。」

「ゴメン…折角死守しようと思ったのに、こんな有様で…」

2人とも対戦格闘ゲームが得意で、それで勝負してたんだけど……やっぱり勝者は裕樹だった。

「真由、いいよ…いつかは越えなきゃいけないラインだもん。それがたまたま今日だっただけ。
 で?場所はどこが御望み?唇以外なら受け付けてあげる。」

「結局唇は駄目なのかよ!まぁ恋人じゃないしいいけどな。
 ……だったら街中で頬にしてもらおっかな〜」

うっきうきな裕樹はゲーセンを一番乗りで後にし、私たちはそれに続く。
男たちはノリノリだけど、私はもう負けた時点で鬱に入ってた。
こいつらも1クセあるヤツらだからね。





「あ、この辺とかがいいかな〜」

裕樹が急に立ち止まって、私を見る。
そこは、人通りの激しい駅前の公園入口。
よくあるカップルの待ち合わせ場所としても、バッチリなところだったりする。

「こんな往来の激しいところでするわけ!?」

私はこういうところ、断固拒否したいんだけど……

「なんかさ…目立つことって1回やってみたくないか?」

「私は嫌よ!こんなトコで知り合い…特に兄さんには見られたくないのよ。」

「あー…それをネタに強請りそうな感じだな、アイツは。」

香奈がまさにぃを思い浮かべて納得する。
亜由なんて、ニコニコしながら「ちゃんをいじめる人なんて死んじゃえです〜v」なんて言ってるし。

「でもよ、こんなに往来激しかったら、逆に誰も見ないだろ。」

「まぁ賭けに負けたわけだしね。それはちゃんとするわよ。」

「じゃあせめて私達が壁を作っておく。それならも安心できるだろう?」

まぁそれなら大丈夫だろうと思って、裕樹に少し屈んでもらう。
流石に15cmも差があると、頬でも届かないからね。



「……1回限りだからね///?」



小声で言って、霞むようなキスを送る。
当人同士にしか分からないほどの、掠めるようなキスを。






……まさかそれをまさにぃじゃなくて、竹中さんに見られてたなんて、思いもよらなかったけど。












そんなことを思い出してたら、竹中さんから突き放されて、私は後ろの壁に激突して…
痛っとか思ってたら、いつの間にやら私の両腕が頭の上で一括りにされてて、竹中さんが異様なほどの微笑を私に向けてた。
…それが正直、怖いと思った。

「言えないのでしたら…身体から聞き出すまでです。……覚悟は宜しいですか?」

私は竹中さんの雰囲気と、これから何をされるか分からない不安とで恐怖が起こる。
少しパニック状態になって、ふと気がついたら目の前に竹中さんの顔があって…………



……頬にキスをされてました。



何秒くらいだったんだろうか……

長いようで短い時間。
止まっていたようで、ゆっくり進んでいたのかもしれない。
竹中さんが名残惜しそうに離れていくのが雰囲気で分かる。
そして目が合った瞬間、

さんの全てが、僕のものなんです。本当は誰にも触らせたくなんてないんです。」

と言われて…額以外にキスを、しかも家族以外からされただけで戸惑ってるのに、更にこんな追い討ちかけられて…。
平常心でなんていられなかった。
それこそ瞬間湯沸かし器の如く、顔が真っ赤になってくのが自分でも分かる。

「そ、そんなこと…言われても…っ、私は私の物で、あって……」

しどろもどろになる私の言葉。
あんなこと言われたの初めてだから、どう対処していいかなんて分からなくて…
その上、こんな恥ずかしいの見られたくなくて、竹中さんにくっついたら。


首筋に何か痛い感触が走った。
まさか、と思って竹中さんを見上げたら「キスマークをつけさせて頂きました。」って。

「え?え!ウソ!?」

「今のままじゃ見えませんよ。服で隠れるか隠れないかギリギリのところにつけましたから。
 これでさんは僕のもの、ですね。」





嬉しそうに言うけど……私は物じゃなーいっっっ!!
ついでにムカついたから、痛いと感じたところをゴシゴシ擦ってみた。
こんなもんかなー、なんて思ってたら、


「あぁ、消えてしまったらまたつけなくてはなりませんねぇ?」


なんてさらりと言ってくれる。
顔は笑ってるのに、目と雰囲気は全然笑ってなくて……寧ろ黒いものが見える。


結局、私の首は360度赤くなった状態で水族館を後にすることになって…。
もう簡単に賭けなんてしないっ、と心に誓った今日。

でも、やっぱり止められなくてやっちゃって、またつけられて…って繰り返すんだと思うけどね。



...end(好きシーンで30・口付けを落とす)

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