大勢の視線が行き交う中、我らの目が合ったその時はイタズラの合図。



『サインは目線で』



――数時間前。

ー!」

我の名を叫びながら、我に向かって走ってくる足音。
親族にあの信長公がいてもなお、こんなことをするのはただ1人。

?何かいいアイデアでも浮かんだのか?」

―――砂城
我は元来女が苦手なのだが、唯一このだけは会った時から何の意識もせず付き合えた人間だ。
それ以来、我らはイタズラ好きが高じて今では有名なイタズラコンビとして名を馳せている。

「そうなのよっ!あのね、今日副担の乗ってる車の窓が少しだけ開いてるのを見つけちゃったの!」

「あぁ、あの…で、その浮かんだアイデアとは?」

「えっとねぇ…………」

の浮かんだアイデアとは、車の中に嫌いな虫を入れるというものだった。
あの副担任の嫌いな昆虫というのがバッタ。
びょんびょん跳ねる、黄緑色の虫だな。

「……しかし、この辺でバッタなぞいるのか?」

と聞いてみたのだが、それは愚問だったようだ。
なぜなら、の手にはビニール袋(中にはバッタ入り)が握られていたのだからな。
だがそこでふと思った。
は虫を自ら捕まえるようなことはしないし、この校内でバッタを見かけたことなどなく、しかもこの袋の中にいるバッタはびょんびょん跳ねている。
朝から捕まえたにしては威勢が良いしと思って聞いてみたら。

「え?この下に見える草むらの中にいたのv捕まえたのは亜由よ?すっごく上手だったんだから!」

…まぁそんなところだろうな。
はと言えば、水を得た魚のように目をキラキラさせて我を見る。
ふむ…、我もあの先公はあまり好きではないからな。
ここは1つ、と共に乗ってみるのも一興だなv

「それで、この後どうするつもりでいたのか聞かせてくれまいか?」

「ふふっ!そうこなくっちゃねv
 あのね、まだあの場所に何匹かいたんだけど………」

としては1匹ではもの足りないらしい。
窓も開いておるし、下手をすれば逃げてしまうだろうからな。
まずはバッタの数を増やさねばいかぬな。
あの先公が帰るまでにはまだ十分時間はあるし、これは面白くなってきたようだv

「で?肝心の車の中にはどうやって入れるつもりだ?」

「う〜ん…問題はそこなのよね。
 窓が開いてるといっても、ホントに少しだからねぇ?」

「そうか。ならば我に良い案があるぞ?」

「ホント!?、教えて教えてっ!」

手にしている袋を握りつぶしそうな勢いで縋ってくる
そのように期待されては、我も張り切らぬワケにはいかぬではないかvv
そして我は思いついた案をに耳打ちし、放課後決行することとなったのだ。





放課後、が流すような視線で我を見て、それからイタズラ開始――

「さぁっ!いよいよね!」

現在、と我が両手にバッタの入った袋を持ってターゲットの車に来ているところだ。
は少しばかりと言っていたが、これでは結構開いている方ではないか。
しかしこのくらいではバッタは外に出られぬだろうな。

「して…?ここにバッタを入れた後、どこで様子を見るつもりか?」

我の計画通りにバッタは車内に入り、少し動いては跳ね、少し動いては跳ねを繰り返している。
いくら夕方に近いとはいえ、まだ先公たちが帰る時間ではないとも承知しているはず。

「えーとねぇ……あそこ!」

が指差した先は校舎の曲がり角。
あそこは丁度いい具合に草が茂っていて、ちょっとやそっとでは気付かれない絶好の位置。
…行き当りばったりみたいな感じとはいえるが、まぁ見張るには妥当なところだろう。

「ふむ…。で、いつまで待つのだ?我はあまり遅いと困るのだがな。」

「んっと、20分くらいかな。」

何故が出てくる時間まで分かっているのか不思議ではあったが、それは今置いておくとしよう。
の情報網は侮れぬところがあるからな。

「さ、これで副担が出てくるのを待つだけね!
 どんな反応をしてくれるのか、楽しみで仕方ないわっ♪」

はウキウキと草の陰に隠れ、我はその後ろに控え今か今かと待つ。
予定よりもやや遅れて出てきた先公は車のロックを解除し、ドアを開けて―――思い切り叫んだ。
そんな悲鳴がバッタに届くはずもなく、窮屈で気温の高い車内から出られるのを待っていたかのごとく、先公の顔に跳躍し張り付く。
只でさえ嫌いなモノがいたというのに、顔に張り付かれて混乱しないわけがない。
叩くようにしてバッタを払い落とした後、ドアを全開にして車内のバッタを1匹残らず外へと追い出していた



その様子は陰に隠れていた我らに丸見えで、2人して思っていたよりもリアクションがすごかったことに笑ってしまう。
なぞ、「ここまでやってくれるとは…流石ねっ!」なんてある種感動さえしている。
その後先公は車内にバッタがいないことを確認して、慌ててエンジンをかけて帰っていった。

「大成功ね!あんなにもすごいリアクションをするなんて思ってもみなかったわ!」

「あぁ、あれだけ叫んでいたからな。明日には学校中で話題になるだろうな。」

、協力してくれてありがとv」

「礼を言うのは我の方だ。あの先公、あまり好かなかったからな。いい気味だv」

久しぶりに楽しい時間を過ごしたと思う。
だが、翌日と我は揃って呼び出しを食らって説教を食らったがな。



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「これは中3のときの悪戯話だな。」

「そうね。あの頃は毎日こんなことしてたっけ。」

「大学には行かない、と豪語してたがここにいるのだから不思議なことだ。」

「そうなのよ!私、受験当日に熱出したっていうのに、試験会場まで連れて行ったのよ!?」

信じられない!とが指をさす先には、の異母兄である伊達政宗と、我の恋人である片倉小十郎。
思い出話に花を咲かせ、気になると言って聞いていたのがこの2人だ。
まぁ流石にこんなことをしているとは露にも思っていなかったようだがな。

「Shit!目を離すとロクでもないことするからだろうが!」

「お生憎様!夜な夜な街を出歩いてる人に言われたくないわね!」

「なっ!、お前だって夜出歩いて」

「あ〜ら?私は生活だもん。そういうまさにぃこそ、喧嘩して」

「……政宗様、ちょっとこちらへ」

「!は、離せ小十郎!!っ、テメっ覚えとけよ!?」

愛しの小十郎が出て行ったのはちょっと癪だが、これで静かになるな。
そういえば、先に政宗が言っていた「夜出歩いて」とは、高校時代何かしていたのか?
今無理に聞くこともないし、が離すまで待つとするか。
そう思ってふとを見ると偶然にも目が合い――――悪戯をけしかけてみたくなった。

。久しぶりに悪戯してみるか?」

「う〜ん…憂さ晴らしには丁度いいかも!」

どうやらも同じことを考えていたらしい。
そうと決まれば、すぐに実行せねばなv
政宗よ、もう少しに気を配るべきだったな。
さすれば、今からの悪戯は行われなかったというのに……ほんに疎いヤツだ。



...end(好きシーンで30・18サイン)
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