生まれる前…僕らは恋をした。



〜前世からの付き合い〜



「…夢を見たんだ。」


それは遠い昔の夢。
今とは違う時代、違う場所で俺じゃない俺がいた。
俺以外にも貴方や他の知り合いもいたよ。
それぞれ今と身分も立場も違って…


―でも、俺たちは出会い…恋をした。


想い合い共に幸せを望んだ。
けれど…時代はそれを許しはしなかった。
共にの幸せ等ありはしなかった。


「伊達さんは武将でね。はその影武者…"御猫"と呼ばれてた。」


主と影…それでも愛し合った二人。
影は主の完璧な影となるために自ら右目を抉り出し全てを捧げた。
主はそんな影を誰よりも慈しみ誰よりも愛情を捧げたけれど…主の母が影を殺した。
母は主を憎んでいて暗殺を謀ろうとして、食事に毒もった。
影はそれを知っていてその食事に手をつけた。
その結果、影は主の身代わりに死んだ。


「片倉さんは伊達さんの部下でね。さんは色町の花魁だった。」


武士と花魁は色町で出会い互いを求めた。
一夜と知りながらも武士は花魁を求め、束の間の逢瀬を大切にした。
花魁は誰よりそんな武士を求めながら血の縁に逆らえず…武士に銃を向けた。
出逢うはずのない戦場で花魁は自分の全てを告白し、引き金を引いた。
でも、それは空砲で…変わりに花魁の腹を武士の刀が貫いた。
愛する人の腕の中で花魁は息を引き取った。


「半兵衛さんは秀吉さんの軍師でさんは伊達さんの妹で姫君。」


軍師と姫君は友達以上恋人未満。
軍師は破天荒な姫君に呆れながらも惹かれる自分に戸惑った。
姫君はそんな軍師を振り回していつだってご機嫌に笑う。
振り回し振り回され、それでも互いの間にあった笑顔。
けれど、思いに気づいた時にはもう既に遅くて軍師は病に侵かされていた。
姫君はそれを知らず…ただまた会える日を待ち続けた。


「幸村君は伊達さんのライバル武将ではその直属の忍だったんだ。」


主と忍はお互い無二の存在だった。
主は誰よりも忍を想い慈しみ、屈託もなく想いを告げた。
忍は身分からそれを口に出しはしなかったけれど、主を想い彼の為に尽くした。
恋人にはなれぬ代わりに誰よりも主の為に尽くし…死さえ選んでみせた。
身寄りのない忍に突然現れた血縁者は敵方で、その為に疑惑を持たれた。
処刑の寸前まで忍はただ主の事だけを想い続けた。


「佐助さんは幸村君の忍で忍隊の長でね。は佐助さんに拾われてた。」


長とくのいちは互いが全てだった。
長は戦場で拾ったくのいちを傍において離そうとしなかった。
くのいちは忍にはまったく向いてなかったけれど、それでも役に立ちたいと思っていた。
でも、長の寵をえるくのいちは他の忍には不快でしかなく…故に罠にかけられた。
些細なくのいちでも出来そうな任務だと唆され行ったの敵の巣窟。
くのいちは長の為に最後は自分自身をかけて敵を討った。


「武田さんは幸村さんの主君で、さんはある領の姫君だった。」


主君と姫君は姫で恋に落ちた。
主君は年の差を悩みながらも姫君を奥方にと望んだ。
姫君はそんな主君を愛し、彼の奥方になることを望んだ。
互いを想いながら少しずつ距離を縮める幸福は…姫君の父親に壊された。
婚礼前日に姫君は父親に純潔を汚され、姫君は自分が傍にいてもいい存在でないと思った。
一滴の涙を流して姫君は湖へと身を投じた。


「元親さんは海賊でね。さんの妹でやっぱり姫君だった。」


海賊と姫君は互いに手を伸ばしあった。
昔から病弱で屋敷から出たこともない姫君は海賊の奔放さと強引さに惹かれた。
海賊は屋敷の離れに隠されるようにいた姫君を宝としてなによりも強く望んだ。
家人の目を盗んでの束の間の逢瀬の中で互いを想い合い共になる約束をした。
だけど、それは適う事無く…謀反を企んだ父親により屋敷に火が放たれた。
燃え盛る業火の中で姫君は海賊の名を呼び続けた。


「元就さんは智将って呼ばれる武将で、はやっぱりさんたちの妹だったんだけど二人は夫婦で。」


夫と奥方は契りを交わして夫婦になった。
冷静に、特に非情な策で味方を駒として使う夫だが奥方だけは特別だった。
奥方はそんな夫を支えながら、夫の家を守っていた。
いつか子をなして共に年老い生を終えるまで過ごす事を望んでいた。
だが、奥方の父親が起こした謀反は家にとっては火種。
奥方は全てを悟り受け入れ自決を選んだ。


「蘭丸君は織田さんの小姓で君は濃姫さんの小姓でね。」


幼い小姓達はまだお互いの想いに気づいてはいなかった。
殿に仕える小姓はいつだってつっかかり暴言ばかりだったが決して手は出さなかった。
奥方に使える小姓はいつだってけんか腰だったが相手への悪口は決して許さなかった。
幼い小姓達は互いの想いに気づかず、ケンカばかりだけどそれでも互いを必要にした。
ずっとこんな時が続くのだと思ったが…突然起きた謀反がそれを許さなかった。
小姓は仕えるべき奥方ではなく彼の為に命を懸けて戦った。


「で、慶次さんは武士なんだけど戦に興味のない風来坊で…俺は古本屋の娘だった。」


風来坊と娘は気が付けば共にいた。
風来坊はすぐにどこにでも行ってしまうけれど、いつだって娘の元に帰って来た。
娘は風来坊の奔放さに戸惑いながらもそれでも風来坊の帰りを待ち続けた。
気が付けば風来坊の帰る場所は娘で、娘にとって風来坊は大切な存在だった。
けれど、時代は…戦はそんな穏やかな許さず町は戦火に包まれた。
娘はそんな戦火の中で命が絶えるまで居場所を守った。


「へぇ、なんか面白いなぁ。他の奴らも揃ってたのか?」
「うん、知ってる人が沢山いたよ。」


それはあくまで夢で現実ではない。
そうただの夢だけれど…非現実的なはずなの何故か俺にリアリティを感じさせる。
それはきっと夢と済ますにはあまりに生々しい光景だったから…


「みんなで昔の世界かぁ。きっと騒がしいけど楽しいだろうぁ?」
「うん、そうだね。」


その世界でなにがあったのか貴方に俺は言わない。
だって、いちいち話すような内容じゃないしこれはただの夢なのだ。
そう夢でしかないのだけれど…



「ねぇ、慶次さん…」

でも、もしもあれが俺たちの前世だと言うならば…





「俺…貴方の事がとても好きだよ。」

あんな終わりはイヤだと思った。





悲しみの中で終わってしまった恋たち。
誰一人望んではいなかったはずの結末だった。


「なんだ?がそういうこと言って甘えてくるのって珍しいな。」
「別に…たまにはいいでしょ。」


今傍にいる事を確認するように抱きついて。
確かに感じる感触とその温もりにばれないように安堵する。
ちゃんと傍にいてくれるのだと…


―俺たちは生まれる前に恋をした。


それは所詮夢なのかもしれない。
でも、もしもそうであってもそうでなくても…俺はただ願う。
今の俺たちはずっと共に幸せであれますようにと…



俺たちは今も現在進行形で恋をしている。



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