その背が今にも消えてしまいそうだから…
=後ろから抱き締める=
それはまごう事なき偶然で…
でも、必然だったのかもしれない。
「……なにをやってるんだ?」
こんな所で…
「なぜ主がそんな所におる……」
「……」
我らがここで出会ってしまったのは…
事の発端は今から少し前。
蒸し暑い夏の暑さから事は始まる。
「まったく熱いな…こんな日はつまらない授業などさぼるに限る♪」
元々、勉強はあまり好きじゃない。
学生のうちはしなければいけないと言うからしているだけの事。
やる気がなくてもテストはそれなりに点は取っているのだから問題はない。
そう思って向かったのは屋上。
「今の時間なら屋上も少しは涼しいに違いあるまい。」
蒸し暑い階段を上って鉄の分厚い扉の前で。
本当は鍵が掛かっておる場所だが、いつだって悪行の先代(不良)とはいるものだ。
隠されたスペアの鍵のありかは知っておるが…変だ。
少し扉が開いている。
「…先客か?」
それにしても開けたままとは無用心な。
教師にばれたら小うるさいだろうにと重い扉を開ける。
そのまま中に入り人の気配になんとなく視線を移すとそこには…
金網の外に立つの姿が合った。
「…いくら今日が暑いとは言え、そこは涼しくはあるまいよ。」
「下から吹く風は結構涼しいよ。」
「だが、涼しくてもそこにおっては騒ぎになるであろう?」
「今の時間は体育がないから大丈夫みたいだ。」
―なにをしているのだと…問う気はない。
この状況でそれがどう言う意味を持つかわからぬほど我は鈍くはない。
また、伊達や酔狂でこのような行為をするほどはイカレた人間ではない。
むしろ、哀れなほどに理性的な人間なのだ。
「そこはそんなに気持ちがいいのか?」
「…吸い込まれそうな程には…」
そう言ったの瞳にいつもの穏やかな色はなく。
あるのはどこまでも無色透明で何も映さない虚無だけ。
いつもきっちり着込んでいるはずの上着が乱れベルトが中途半端に外されたズボン。
そこから覗く肌にはうっすらと赤い斑点のようなものが見える。
…これだけでなにがあったか推測が付いてしまうのに…
「…なぁ、。今日、学校に父が来たんだ。」
「………父?」
「たまには…変わった所もいいだろうと言って笑った。」
「!?」
あぁ!これで全てわかってしまった。
そう言えばさっき廊下ですれ違った醜男…あれはの父だった。
ニヤニヤ笑う顔が気に喰わず無視していたが、まさかあの男。
「笑って今日も俺を…弄んだ。」
を…オカシタノカ?
その考えに至った瞬間に胸に生まれるどす黒い感情。
は我の大切な友人だと言うのに、それを傷つけたのというのか!
しかも、最も最低な方法で今日もと言う事は初めてでもないのか!
「慣れてるんだ。気味の悪いあれに奉仕をさせられるのも…よくわからない玩具を中にいれられるのも。」
「…」
「慣れてるんだ。学校でとかも初めてじゃないから…」
静かに告げれる真実が酷く恐ろしい。
はいつだっていつも穏やかに微笑んでいて、こんな姿我は知らぬ。
だが、今までこの目の前の友人はいったいどんな目にあってきたのだろうか?
我らの前では微笑みながらその後ろではどんな目にあってきたのだろうか?
思いつく、おそらく真実に吐き気がした。
「だから、もう飛ばないよ。大丈夫。」
「…お主は…」
なのには微笑むのだ。
虚無な瞳でいつもと同じ顔で微笑む。
「の声を聞いたから、あの子達の事を思い出したから飛ばないよ。」
なんて穏やかで哀しい笑み。
「っ!!!」
我慢できなくなって策越しに後ろからその背を抱きしめた。
飛ばないと言ってはくれたが、このままだとそのまま飛んでいってしまいそうで。
青すぎる空の青に目の前の友人が溶けて消えてしまいそうで。
我は名を呼びその背を抱きしめる。
「…ありがとう。、思い出させてくれて……おかげで俺はまだ守れる。」
生きるではなく守れるのだと…
それはきっとあのまだ幼い二人の双子の事で…
彼らを守る事のみのは生存を選んでいる。
その為だけには生きると言う。
「………」
だから、我は名を呼ぶ。
今ここにいる存在を確かめるように…
消えない鎖になるように名を呼ぶ。
「……」
―ドウカ消エテシマワナイデ…生キテイテ…
後ろから抱きしめた背はなぜか今も消えてしまいそうな儚さを持っている。
End.