さん、今日は…僕のちょっとした我儘に付き合っていただけますか?」


今日は竹中さんとのデートの日。
私はまだ学生だから、授業が終われば時間は空いてるけど、竹中さんはそういう風にはいかないの。
………だって、豊臣トランサクションの副社長よ!?社長の右腕なのよ!!?
すごい重役だよ!なのに、こんな一般ぴーぷるの私と休日返上でデートしてくれるんだ〜v


……な〜んて、るんるん気分で待ち合わせ場所に行って、竹中さんから言われたのが、さっきの一言。




私…なんかした覚えないんだけど!!?



〜追い詰める〜



「え、えーと…私、竹中さんに…何かした…かしら?」

僕が発した言葉で、さんは必死になって思い返しているみたいですが。
はっきり言ってしまえば、僕に何かをしたわけではありません。
まぁ…全てはさんの行動が悪いんですけどね。
今までは寛大な僕だったので、大目に見てきましたが……



流石に今回ばかりは見逃すことは出来ませんね。

「いいえ。さんが僕に何かしたわけではないんですよ。」




ただ、貴方を…………独占したいだけ。









「よ、よかったぁ〜。もうっ!私竹中さんにとんでもないことをやらかしたかと思ったじゃない!」

とんでもないこと、ですか。
全く…あんなことを許容させておいて、僕が貴方を許すとでも思ってるんですか?
これでも一応、貴方を誰の目にも触れさせたくないほど好いているんです。
しかし、それについて貴方の自覚はない。
さん…貴方には少しお仕置きを受けてもらわねばなりませんね。

「それはそれは済みませんでした。では、予約してあるレストランへと行きましょうか。」

駐車場に向かい、僕は助手席にさんを乗せて、今日のレストランへと車を走らせる。
これからさんの身に起きる出来事に、僕はほくそ笑む。
だって……今日はそのためのデートなのだから。



「やっぱ、本に載ってるだけあって美味しいわね〜」

このレストランのお勧めとデザートを食べて、満足した顔のさん。
その顔を見てると、本当に何でも許したくなってしまうんですが…今日ばかりはそういうわけにはいかないんで。
……さぁ、これからが本番なんです。
じっくりと僕を楽しませてくださいね??

「ねぇねぇ、次はどこに行くの?」

「そうですね…水族館なんていかがですか?」

さんは今よりも更に顔を輝かせ、僕の袖を引っ張って急かす。
そんなに慌てなくても、水族館は逃げはしませんよ。
ただ…魚の生命までは保障できかねますが。


そして僕は、水族館へと車を走らせ、駐車場に車を入れる。
さんは本当に無邪気な子供のようにはしゃいで、1人さっさと館内へと入って行く。

「全く…これからどうなっても知りませんよ?」







「わぁ…綺麗…可愛いv」

1つ1つの水槽に感嘆を漏らし、近寄ってきた魚に語りかけるように笑いかける。
それを後ろから見ている僕にとっては、この魚達でさえも嫉妬の的になる。
今は……いつものように、感情をコントロール出来ないんだ。

「あ…親子ラッコ……」

さんが見ているのはラッコの水槽。
そしてその目線の先には、親子で水の上を漂う2匹のラッコ。
「羨ましい…」聞こえないように呟いたのだろうけど、しっかりと聞こえてしまった本音。
水槽の中で寄り添うラッコは、それは幸せそうで。
その様子がさんに直接伝わったのだろう…。

「…少しだけ、こうさせて?」

突然、さんが僕にぎゅっと縋り付く。
多分泣き顔を見られたくないからだろう。
まぁこの後、僕が思う存分楽しませてもらうからいいとして…ね。

「じゃあそのままで構いませんから、違う場所へ行きましょう。
 ここでは流石に目立ちますから。」

そう言って、近くの『非常口』と書かれた扉へ行き、周りに誰もいないのを確認して入る。
中は光灯が煌々と照らし、館内とは打って変わって眩しいほどの明るさ。
けれど、水族館スタッフは通らない……僕にとっては絶好の場所。

「もう顔を上げても大丈夫ですよ。」

僕がそう言うと、さんは何のためらいもなく顔を離す。

「あ、あの…ごめんなさい。急に泣いちゃったりなんかして…」

まだ潤んだ目を擦って、態と笑って僕を見上げるその顔は、庇護欲と征服欲を掻きたてるもので。
僕は今すぐ押し倒したくなったが、それを抑えた。

「いいんですよ。あのラッコの親子を見て、懐かしくなったのでしょう?」

まだ笑顔という仮面を貼り付けて、僕は言う。
それを見て安心したのか、さんはいつも通りのテンションへ戻っていった。

…チャンス、ですね。

「そういえば、さんにお聞きしたいことがあったんですが…」

「何々?竹中さんもついに、BLに興味持ったの!?」

「いえ、残念ながらそうではないんです。」

そう言うと、さんはオーバーなほどがっかりしたけれど。
そしてそのままドアノブを手にし、回そうとしたその時……僕は言った。

「先日、さんは一緒にいた方にキスをしてましたよね?…あれってどういうことなんですか?」

さんは全身をぴくっと震わせ、ドアノブに手をかけたまま、顔が俯いていく。
そして一言、

「竹中さんが気にするようなことじゃないんだけどなぁ〜」

そのままドアノブを回そうとする手を掴み、身体を僕の方へ向けさせる。
あまり勢いをつけたわけではなかったけれど、さんは僕に抱きつく形になってしまった。

「僕は貴方が好きなんです。気にならないわけがないでしょう?」

「でもあれは…本当に気にするようなことじゃないの!」

そう言いながらも、決して僕の方を見ようとはしない。
貴方のその姿を見ていると、この質問…肯定ととりますよ?
だから……これが最後の質問です。


「それとも……言えないような事、なんですか?」


それを言った途端、さんは空いていた手の方で、ぎゅっと僕の服を掴む。
これは……お仕置きをしなくてはなりませんね。

さん…」

僕はさんの顔を上げさせ、そのまま身体を壁へと突き放す。
強く突き放した所為か、バンッという音と共に、さんの顔が苦痛に歪む。
そして両腕を頭上で一纏めにし、さんに微笑んだ。

「言えないのでしたら…身体から聞き出すまでです。……覚悟は宜しいですか?」

みるみるうちに驚愕の表情になり、青褪めていく。
僕はそれをじっと眺め……


……………キスをした。



...next(好きシ−ンで30・追い詰める)

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