―――お前らって、本当に双子なのか?
は僕と一緒ですね―――
『鏡は外しか写さない』
今日もオレは鏡を見る。
本当は見たくなんてないけれど、どうしても目に入ってしまうのだ。
だったら布でもかけて見れなくすればいいと思うのだが、や兄さんが来たときに問われるんだ。
どうしてそんな綺麗な自分を見ないの?―――って。
オレ自身、この家でただ1人違う自分を疎ましく思う。
髪、目の色、肌…とにかく何もかもが、この家の人間と何1つ一致しないからだ。
それはオレの半身でもあるとも……
「…入ってもいいですか?」
振り返れば障子戸に立つ。
少し着物が着崩れているところを見ると、今日も発作を起こしたらしい。
また無理をして部屋を抜け出してきたんだろう。
「また鏡を見ていたの?」
「あぁ。」
「そんなに気に入らないですか?
……この家の誰とも似てないことが…」
静かに障子戸を閉め、ゆっくりとした動作でオレの後ろに立ち、疎ましく思うその白い髪をいじる。
「僕は…羨ましいです。」
ぽつりと呟く言葉。
は聞こえないように言ったのだろうけど、この静かな部屋には廊下に聞こえるぐらいで。
そうして玩んでいた髪から手を放し、オレの隣に座る。
「の白い髪も、赤い目も、その肌も。」
言いながら髪、目元、腕と順に下へ下りていく。
「この家の人であることを表すものがないのだから。」
そしてオレの手に被さるように手を置いて軽く握られる。
「……僕はどこにでもある色ですから、の色がすごく羨ましいのです。」
は黒髪で紫の瞳。
紫色っていうのも滅多にないと思うけど、がそういうのならそうなのだろう。
オレは視界に入ったの髪に手を伸ばし指を潜らせればどこにも引っかかることなく、すんなりと髪の先へと指は下りていく。
それに何故か惹かれ、オレは何度も何度もその行為を繰り替えしていた。
「…?これで落ち着くのなら、が飽きるまでずっとしていていいんですよ?」
オレの行為が珍しかったのか、は笑ってオレのされるがままになっている。
それだけを繰り返してどのくらいの時間が経っただろう……?
が心配そうにオレを見て手を伸ばしてきたのだ。
「…泣いてる…どうかしたの?」
手を伸ばしたのは、オレの涙を拭うためらしい。
泣いてるなんて全然分からなくて、に言われて初めて気がついた。
でも…、泣いてる理由がオレにも分からないんだ。
「…………分からない…どうしてなのか、…わからないんだ……」
その間も涙は止まらない。
特に悲しいとも、嬉しいとも、寂しいとも思わないのに―――何故?
「には分からなくても僕には分かります。
兄様も、今のを見たらすぐに分かると思うのですけれど…?」
は俺を見ながら苦笑いをしている。
オレ自身が分からないのに、どうして2人は分かるんだ?
分からない、わからない、…………全く分からない。
「はね、―――僕と双子なのに、何1つ似ていないことが腹立たしくて苛々しているんです。」
そう言われてやっと分かったんだ。
オレとは双子なのに……生まれたときから何処もかしこも似てるところなんてない。
ことあるごとに言われて、自分で鏡を見るたびに自覚して。
気付かされたらそんなことかって思うけど、自分で気付けなかった事に苛立ちがある。
「そんなに怒っちゃダメです…
でも…、と僕は内側はすごく似ています。」
悲しげな顔をして怒るなと言い、でもまたすぐに笑い出す。
内側が似てるって……もしかして………
「頑固なところが、か?」
オレの答えは合っていたらしく、は笑ったまま首を縦に振る。
確かには『これだけは』って思うことは引かないけど、それはオレもそうだってことなんだろうな。
――そんなのオレは全然知らないけど。
「だから心配することなんてないのです。
周りが何と言おうと、僕達は兄弟で双子で大切な存在なのですから。」
ね?と言われては頷くしかないだろ…
でも、これで鏡を見ても悲観的にはならないと思う。
それは、の言うとおり――――オレたちは兄弟で双子で、互いが大切な存在だから。
...end(身近なモノで10題・04鏡。)