この僕としたことが…
彼女の背後にいた敵に気付かないなんて。



〜僕が死んだら笑って忘れてくれ〜



秀吉はもとより、も参戦したこの戦。
何度も戦場を駆け抜け、天下統一を果たした彼女だけど、僕達より経験が浅いことに変わりはない。
それなのにどんどん突き進んでいくを追いかけるのに精一杯で、彼女を狙う敵の存在を忘れていた。

「さぁ、次に私にやられるのは誰かしら♪」

両手に愛銃を構え、にっこり笑って至極楽しそうに言うは、宛ら阿修羅だ。
だが、阿修羅と違うのは『殺さない』こと。
事前に計画を立てるわけでもなく、いつも行き当りばったりの状態。
ただそれだけなのに、僕には彼女が神に思えた。




そして…もう少しで彼女に追いつく、と思ったその時。
の背後を狙って投げられた武器。
飛び道具からして、相手は忍だろうと予想がつく。

!!」

声を掛けると同時に、構えた愛銃で全てを打ち落とす。
それは寸分の狂いもなく、まっすぐに地へと落ちていった。

「…全く、どっからでもかかってくりゃいいってもんじゃないのよ!」

2丁の愛銃に弾を込めながら吐き捨てる。
その間に僕は彼女の元へたどり着き、周囲の気配を探る。

けれど相手は忍。
しかも相当の手練らしく、気配はわずかなものだ。
その上、何人いるのかが全く分からない。

「ごめんなさい…私が『殺さない』っていう制約を作っちゃったから、こういうことになっちゃったんだよね…」

あまりの状況に舌打ちをしたら、弾を込め終えたのだろうが謝ってきた。
確かに『殺す』のは簡単で『殺さない』のは難しい。
特に秀吉の為に強い国を作ろうと、各地を行脚した僕は、彼女の気持ちが何となくだが…分かる。


「いいえ。強い国を作るには、まず人が要ります。
 その人たちが国を背負って、内乱や世界と戦い、平和を築くんです。


 ですから、貴方の考えは間違ってなどいませんよ。」


そう彼女に言えば。

「…そうだよね。平和は成しても、維持するのは難しいもんね。
 そのためにも、天下統一を成した私が頑張らないといけないんだよね〜」

は愛銃を持って立ち上がり、服についた泥をぱぱっ、と落とす。
そして振り向き様ににっこり笑って、

「この戦はもうちょっとで終わらせるから。それまで頑張りましょ♪」

それに頷いて僕も立ち上がり、彼女が一歩を踏み出した瞬間。
全ての方向から一斉に手裏剣やくないが飛んできた。
僕がそれらを全て地へ落とし、は飛んできた方向めがけて銃を放つ。



「さ、先へ進みましょv」

僕らを取り囲んでいた忍を一掃し、は先を促す。
彼女の足取りはとても軽いものだが、僕の心では何かが引っかかっていた。
そして彼女が振り向いたその時。

「危ないっ!!」

肩越しに光が見え、それが武器だと察知する。
今からでは僕の武器でも、の武器でも間に合わない。
それらを瞬時に判断し、僕はを抱きしめた。


それと同時に僕の背に刺さる物。

「半兵衛さん…?」

突然の事で、も反応できずに固まっている。
ずっとこのままでいたい気持ちと、戦を終わらせるために行かせないと、と思う気持ち。
それらが相反して、僕はどうしていいか分からず、を抱いたまま倒れこんだ。

「ちょっ…!背中、ささってるじゃない!!」

焦った彼女の声も愛おしく思える程、僕は今満ち足りているのかもしれない。
腕の中で暴れる彼女を次第に抜けていく力で漸く押さえつける。
けれど、は何とか這い出して、泣きながら僕を抱きしめてくれた。
段々と薄れゆく景色の中、僕はこれが『死』にゆくものなのだと悟る。
だったら、死ぬ前に1つ言わなければ…

「僕…が死んだら、笑って……忘れ、て…くれ……」

君を庇って死ぬ、間抜けな僕を笑ってくれるかい?
以前の僕なら、相手をあざ笑っていたことだろう。
『隙を見せるから悪いんだ』と。
今の僕が言えた事じゃないけどね…。

そして薄れゆく意識に、暗くなる眼前。
耳には、が呼ぶ僕の名前が木霊した。



...end(半兵衛5題・僕が死んだら笑って忘れてくれ)
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