今までは怖くなかった。
貴方から出ている、あの赤を見るまでは。



〜赤い液体〜



それは先の戦場でのこと。
と僕の2人で赴いた場所でそれは起こった。

「さ、今日も婿嫁探しに参りますかv」

「被害は最小限にしてくださいね?」

「……が怖いしね。」

は1つ肩を震わせると、改めて銃を構えて戦場を突っ切って行く。
総大将が先陣を突っ切るなんて事、本当はありえないんですけど、彼女にはそんなことはお構いなしで。
今日も「ザコに用事はないのv」と言いながら、戦場を駆ける。
そして、僕らはそれを必死になって追いかける。


戦場ではいつもの光景、だったんですけどね。














「さ、ここを開ければ総大将さんのお出ましだよ〜」

僕が追いついたときには、もう貴方は最終門でにこにこと手を振っている。

「相変わらず、突っ走っていきますね…」

「んー…そう?でも私は半兵衛さんを信頼してるから、突き進めるんだよ?」

「でしたら、もう少し総大将としての自覚を持って、自重していただけませんか?」

「うーん…それとこれとは別vv」

僕があぁ言えば、はこう言って反論する。
まぁ、さんから聞いていた通りなんですけども…
こうも聞いた通りだと、流石に呆れてきますね。

「さ、無駄口叩いてないで、さっさといきましょ♪」

僕の溜息も無視して、は門に手をかけ押し開ける。
そこには、今日の戦場の総大将である賊頭とその側近たちがいた。

「今日はえらく少ない人数ねぇ?」

「そんなことを言っていては、後で痛い目に遭いますよ?今は目の前の敵を倒すことが先決です!」

言うや否か、はその場から愛用の銃を放ち、賊頭周囲の敵を片付けてしまう。
それは寸分の狂いもなく、腕や肩、足等の急所を外した部分を打ち抜いていく。
……僕の動く隙間をぬって、だ。

「さ、後は大将の貴方だけだよv」

どうする?という顔のは些か楽しそうに見えて。
けれど、賊の答えは…気が狂ったのか、に向かって突進した。


「っ…させるかっ!」




僕が関節剣を振るうのと、がとても悲しい笑顔で銃を構えて賊の頭を打ち抜いたのとは……ほぼ同時だった。






「……バカだね…」




は打ち抜いた姿勢のまま、涙を流している。
……人を殺めてしまった事への罪悪感なのだろう…。

「…ん、ゴメン。…私は大丈夫だから…城へ戻りましょ。」

そして背を向けて歩き出し、門を抜けようとした瞬間。
…僕の横をすり抜ける物。
それはまっすぐにの背に向かい、あと少しで刺さる、という時に彼女は何を思ったのか振り向く。
それが功を奏したのか、僕の横をすり抜けた物はの腕を掠ってそのまま奥へと飛んでいった。



一瞬の間。
僕は我に返り、放ってきた方向目掛けて関節剣を相手の断末魔が聞こえるまで振るった。
そしてに駆け寄り、負傷した腕の確認をする。

「…思ったよりも深い怪我ですね。化膿する危険が高いですが、止血しておきましょう。」

念のためにと用意しておいた白布を取り出し、の腕にきつく巻く。
少しでも出血を抑えておかないと、城まで…さんの所まで、の身体が持たないからだ。

「城まで半刻は歩かなければなりませんが…大丈夫ですか?」

「……休み休み行けば大丈夫っしょ。…ゴメンね?ホント迷惑な城主でさ…」

辛いはずなのに、態と明るく努めるはとても痛々しくて。
先程巻いた白布はもう、鮮やかな赤に染まっていた。

…今はもう喋らずにただ歩いてください。…でも辛くなったら言ってくださいね?」

「はいはい、分かりましたよ〜」





そして、僕達はこの場を後にする。
賊と……の赤い液体の混じったこの場を。



...end(半兵衛5題・赤い液体)

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