それは痛みを伴う幻…



Phantom Pain.
〜プロローグ〜



不意に感じる痛み。
その度に言い聞かせる。



「Phantom Painって…知ってる?」

この痛みは幻覚だと…



微かに…でも、確実に…
何かの弾みに痛み出すそれ。


「ファントムペイン?」
「医学用語だと正確にはPhantom limb Pain―"幻肢痛"。」
「げんし…余計にわかんないんですけど〜?」
「何らかの理由で失った手足に感じる痛みを言うらしいよ。」


傷なんてどこにもない。
と言うより…欠けた…の方が正しいのかもしれない。


「…ないのに?」
「ないのにだよ。」


欠けた部分に感じる痛み。
幻のようなそれは性質が悪い。


「ふ〜ん…ま、どうでもいいけどな。」
「そう…だね。」
「ほんじゃ、お茶ごちそう様。」
「またね。」


見える傷ならば治療が出来る。
たとえ、出来なくても傷があるからだと理解できる。


!ちょっと待てよ!」
「丸井か…先生と呼べ。」


目に見えるものより…
目に見えないものは不可思議で怖い。


…おるんか?」
「仁王君?いらっしゃい。」


痛みを感じるたびに呼び出される記憶。
それはもうとうに割り切ったはずのもので…


だろぃ!それより…ちょっといいか?」
「そういう問題じゃねぇって言ってもダメか…で、なんのようだ?」


過去の記憶に縛られる意味はない。
わかっているからこそ切り捨てた筈の記憶。


「具合が悪い…訳じゃなさそうだね。」
「あぁ、ともちぃと話がしたくてのぉ。」


なのに感じる痛みはまるで…
未だに傷に縛られている象徴のようで…


「俺…」

だから…



「オレな。」

言い聞かせる。





のこと好きだ!ずっとずっと前から好きだ!」
の事…本気で好いとうよ。」

それは只の錯覚だと…





―phantom Pain.

失くしたものが疼く痛みを感じた気がした。

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