無理は禁物です。



Danger signal.



用事があると倉庫を出てからしばらく。
他校生…仁王雅治は噴水付近にいた。


「ふあああぁぁ〜…っあ!いかんいかん、もうこんな時間か。」


あくびをしながら木陰から起き上がる。
ほんのちょっと休憩するつもりが気が付けば夢の中。
既に2時間以上の時間が経っていた。


「おや、仁王くん。どうしたんですか、こんな所で。」


伸びをしながら歩く仁王にかけられた声。
それは仁王のダブルスパートナーで親友の柳生だった。


「柳生か。あーちょっとな。お前こそなにしとるん?」
「不動峰の運営委員さんを探していたんです。こちらの方が探しておられるらしくて…」

「ども…」


そう言った柳生の隣には見知らぬの生徒。
柳生の言葉に促される様に会釈した彼は不動峰の制服を着ている。
どう知り合ったかはわからないが相手の人探しているのを手伝っているらしい。
普段の仁王なら他校相手にご親切な男だと人の良い相方に思う所なのだが…
不動峰の運営委員と言う言葉に仁王は反応した。


「どこにもおらんの?」
「えぇ、見当たりませんね。2人で一通り見て周ったんですが…」
「別になにか仕事してるんだと思うけど…さすがにどこにいるかわからないのは困る。」

「…………まさか。」


思い出すのは自分を見送った少年の姿。
自分も仕事があるだろうに手伝うと申し出たお人好しは不動峰の運営委員だと名乗った。

嫌なの予感が仁王の脳裏に過ぎる。


「?どうしました、仁王くん?」
「お、おう。なんでもなか。あー、おれちょっと用事思い出したんで行くわ。じゃあな!」
「えぇ。」


もういないだろうとは思う。
もう2時間以上経っているし、仁王だったら止めて帰っている。
だが、もしも…もしも、彼が未だに倉庫にいるとしたら…
仁王は急いで倉庫に行くと扉を開く。


「うわ。整理されとる……相変わらず空調は切れとるな…おーい、不動峰の運営委員〜!」


さっきと打って変わり奇麗に整理された倉庫。
それでも未だにサウナ状態には変わりなく、仁王は辺りを見渡した。
だが、彼の姿はなく名を知らないので役職名を呼んでみる。


「流石におらんかのぅ…………」
「う……」
「ん?………!!」


返ってこない反応。
やはり帰ったかと仁王が思った所に微かに聞えた声。
聞えた棚の影を除くとそこには倒れている彼の姿。
仁王は急いで歩み寄ると抱き起した。


「おいっ!運営委員!おいっ!!!」
「……あ………あれ………あんた……よーじ…終ったんだ…」
「しっかりしろ!ったく、倒れるまで動き回るやつがいるか!」
「ちょっとした……貧血で……少し…ふらっとしただけ…」
「真っ青な顔をして、どこが「ちょっと」じゃ。頭はうたんかったか?」
「だい…じょーぶ…」
「なら一安心じゃな。とにかく医務室に連れて行くぞ……よっと。」



青白い顔に熱つを持ちながらも汗を流してない肌。
これのどこがちょっとだと心で毒づきながらも、返って来た反応と頭を打ってない事実に仁王は安堵する。
そして、とにかく医務室に連れて行こうと自分から見れば小さめの体を抱え上げる。
所謂、お姫様抱っこと言うやつで…


「うわっ…ちょっ……これは…」
「自分で歩けるって言うのは却下。無理なのくらいわかるじゃろ?黙って大人しくしときんしゃい。」
「……う〜…わかった…………ありがとう…」


流石にこれには慌てたようだが、歩けないのは充分わかっているらしい。
少し困った顔で唸った後、頷きながら言われた礼の言葉に仁王は複雑な顔をする。


「………礼は言うな。俺が謝らんといかん方じゃろ。」
「え……?」
「後でいい。ほら、行くぞ。恥ずかしかったら目を閉じとけ。」
「………わかった。」


仁王の言葉になにか言いたげな顔をするがそれを静止外に出る。
大人しく目を閉じた彼は医務室に向かう途中で眠ってしまいます手の重み。
改めて顔を見れば腕の中で眠る彼はまだ幼さを多分に残している様に見える。
そして、だらりとたれた腕は細く一般から見ても小柄だろう体は見た目よりずっと軽い。

元々白いのか今は本当に蒼白となっている肌が酷く痛々しくて…
仁王はいたたまれない気分になった。


「俺は…ほんまに最低じゃな。」


こんな事ならさぼらなければよかったと思う。
そうは思ってももうどうしようもないとわかっていてもそう思わずにはいられない。
仁王は後悔をひしひし感じながら医務室の扉を開いたのだった。


「………あれ?オレ…寝てたんだ…」


次に彼…が目を覚ました時。
そこは倉庫ではなく医務室のベットの上だった。


「眠っとったんは三十分くらいじゃ。」
「あ……」


聞えた声に顔を上げれば仁王の姿。
仁王は目覚めたを見てどこか安堵した顔をする。


「顔色もだいぶよくなったな。医者が言うには、貧血と熱中症になりかけだったらしい。」

「そっか…迷惑かけてごめん。」


どうやら仁王はずっと付いていてくれたらしい。
貧血と熱中症を起しかけた上にここまで運ばせ医者を呼ばせ迷惑をかけたとは思う。

だが、そんなの言葉に反論したのは仁王だった。


「謝るな。悪いのは俺のほうなんじゃし。」
「え?なんで?」
「あー……だから、用事があるって言ってさぼって悪かった。」
「……そうだったのか?」
「…気づいとらんかったのか?」
「うん…と言うか、思いつかなったかった。」
「…(マジか?)」


仁王の謝罪に驚いたような顔をする
どうやら当の倒れた本人は仁王がさぼったなどとまったく考えなかったらしい。
むしろ、思いつきもしなかったと言う答えに仁王は心底驚く。


「ちょっと休憩するつもりが、いつの間にか寝ちまってな。
その間、お前さんを1人ではたらかせて、その結果がこれぜよ。
本当に悪かった。反省してる。」


それでも実際は自分がさぼったのが原因。
そんな負い目がある仁王はもう一度謝罪するが、はなんでもないように首を軽く降る。


「別にいいよ。倒れたのは整理に熱中しすぎて体調管理できなかったオレのふちゅーいもだし。」
「怒ってないのか?」
「なんで?オレ、元々貧血体質だからちゃんと自分で管理してればよかったんだ。」
「そうじゃなくて、オレの事怒ってないのか?さぼったんじゃけど?」
「え?別に?だって、あんた戻って来る気あったんだろ?それに元々これうんえーの仕事じゃん。」


にとって仁王のさぼりと倒れた事はあまり関係ない事だ。
どうせ仁王がいてもは整理を続けただろうし、なら結局遅かれ早かれ似たような状況になったはずだ。
それにそもそ整理整頓は運営委員の仕事で仁王は運悪く鉢合ってしまった状況に近い。

だから、途中で止めても本人の自由だとは思う。



「まぁ、よーじなんて嘘じゃなくてきゅーけいするって言って欲しかったかなぁ。」

ただこの点については思うところはあるのだが…



休憩するならそれはそれでいい。
ただそう言って欲しかったとのほほんと言うに仁王は溜息を付いた。


「はぁぁ………なんというかなぁ……」
「ん?どーしたのさ?」
「なーんか久々に人に完敗した気分じゃ。」
「へっ???」


なんと言えばいいのだろうか。
普通は怒る場面なのに本人はそれがどうしたと言う感じでまったく気にもしない。
どっからどう聞いても生粋のお人好しだと思われるが、本人無自覚ときている。
それは仁王に妙な敗北感を感じさせたが、それは決していやなものではなく。
むしろ、良い意味で仁王はに興味を持ったせた。


「ま、ともかく、ちゃんと手伝わなくて悪かった。じゃけど、お前さんもこれからは気をつけてくれ。人が倒れている所を見るのは心臓に悪い。」
「うっ…気をつける。」


それでも一応注意する点は注意する。
この調子ではまた同じ事が起きそうな感じがするし、本人もそう思っているのか返ってきたのは罰の悪そうな返事。
…あまりこの言葉を信用しない方がよさそうだと仁王は思った。


「…面白いな、お前さんは。この学園祭、退屈じゃと思っとったけどなかなか楽しめそうじゃ。」
「?よくわかんないけど退屈より楽しーほうがいーし。いいんじゃない?」


退屈だと思っていた学園祭で見つけた楽しみ。
当の本人のは良くわかっていないのだが、余計にそれが仁王のツボにはまるらしい。

それなりに楽しい学園祭になりそうだと仁王は口元に笑みを浮かべた瞬間…



!いつまでまたせんだ!」
「!?」「お兄さん!?」



いきなり医務室に乱入してきた陰。
それは柳生を始めとした立海メンバーとあの噴水で柳生と一緒にいた不動峰生徒…

そして、その腰にはなぜかブン太がじゃれ付いている。


「お前があんまり待たせるせいで赤いのに懐かれたじゃん…」
「いや、それは絶対オレのせいじゃないから。」
「いいからとっとと起きろって言うか!お前は離れろ!」
!なんでだよ!」


なぜか謂れのない事で責められはとりあえず否定するがはそれどころじゃない。

はじゃれ付いていたブン太をビリッと離すと(懐かれたらしい)かつかつとよって来ての手を取ると起す。
そして、仁王に向き直るとそれは見事な…仏頂面を向けた。(やる気はない)


「ほんじゃどうもありがとうっした。こいつは隣の家の俺が責任持って連れ帰るんで…ほら、行くぞ。」
「うわっ!お兄さん?引っ張るなよぉ!」


取り付く暇もないとのはこの事だろう。
それだけを言うとの手を引いてさっさと歩いて行く。
他の面々も仁王も勢いに押され声をかける暇もなく去って行く2人の後姿。
その後姿を見ながら仁王はポツリと呟く。



「…まだ名前も聞いてないんじゃがのぅ。」
〜!!!(無視)」

そう言えばこの2人自己紹介もしていない。



後日、仁王が不動峰のブースに言ったのは言うまでもない。
さらにそれにブン太が付いてきて自動的に立海メンバー勢ぞろいうになったのも言うまでもない。
こうしては立海メンバーと知り合うことになったのである。



「…こーゆーのを袖振り合うもたしょーの縁って言うのかなぁ?」
「…こんな縁いらねぇ。(げっそり)」

お陰で昨日以上に疲労した一日だったらしい。(笑)

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