熱中症にご注意を。



Danger signal.



合同学園祭準備2日目。
の機嫌は絶不調だった。


「…お兄さん、眉間にしわ。」
「は?この現状で穏やかな気分になれるとでも?」
「なれたらすごいねぇ。」
「分かってるなら言うな…」
「はーい。」


取り付く暇もないとはこの事だろ。
忌々しそうに舌打ちをする友人には軽く返しながら肩を竦めいた。


(こりゃ、なにかない限りこの様子かなぁ。)


理由はわかっている。
合同文化祭に巻き込まれた事と跡部に無理矢理運営委員長補佐にされた事。
元来めんどくさがり屋のには考えられない連日の出来事。
しかも、元凶の運営委員長様はにご執心と来ている。
それはもうあからさまに…


「マジうぜぇ。」
「あ〜、オレあんなに間近でリムジン見たの始めてかも。」
「…俺もだよ。」


が思うに自身への好意感情に疎い。
敵意や負の感情、他者への感情にはすぐ気付くくせにその手の事にはからきし。
そのせいでトラブルに巻き込まれた事も数度あるのだが、今回は異例だ。
跡部景吾と言う男はわかりやす過ぎるのだ。


「感情に素直と言えば聞えはいーんだろうねぇ。」
「実際は自信過剰に近いがな。意外にガキなんだろ。」
「あ〜、かもね。」
「まぁ、仕事中は仕事の事しかしねぇみたいだけど…」


だが、同時に意外に真面目な男でもあった。
暇な時は口説きにかかるようだが、仕事中はきっちり仕事をする。
それと強引で自己中だが、本当の意味で跡部が酷い要求をする事はなかった。
だからそこがここにいてが黙認しているのだが。


「今日は屋台の配置確認だってよ…うぜぇ。」
「ま、頑張りなや。」
「お〜…」


後は自身の責任感の高さだろう。
一応、朝から今までの業務は差し障りなく行えている。
跡部は少し負傷したが…休憩中だ。


(お兄さんって結局は隠れ真面目さんなんだろーなぁ。)


なんだかんだと言いながら仕事に向かう
その後姿を見ながらそんな事を思いつつも仕事に戻ったのだった。


「えっとこれで完了…あ、一応布ガムテの在庫見とこうかなぁ。」


まだ2日目のせいか委員の仕事は意外に早く済んだ。
休憩にミーティング室に行こうとしたはふと思いつき足を止めた。


「結構午前中でけっこーしょーひしてたし…」


セット作りとはやっぱりこう言うものの消費が大量にある。
まだ予備は残っていたはずだが、それだけで足りるとは限らない訳でもっと必要になるかもしれない。
倉庫にないなら早めに委員長(跡部)に言って発注してもらわなければならないし見て損はないだろう。
そう考えたは行き先を倉庫に向かって歩き出した。


「あっ……すみません。」


倉庫の前に来た所で軽く肩辺りに衝撃。
見上げると白い髪の長身の他校生がいて…どうやらぶつかったらしい。
は頭を下げると他校生は別にと言うように軽く首を降る。


「おっ?…いや、お前さんこそ大丈夫か?」
「オレはだいじょーぶ。倉庫?」
「おぉ、お前さんもか?」
「そーでっうわっ!なんか凄い熱気が!あつっ!」


お互いに用事あるようでそのまま倉庫に入ろうとした…のだが。
空けた瞬間に蒸したような熱気をが顔を直撃しては顔を顰める。
倉庫内は現在サウナ状態になっていた。


「お〜…こりゃ空調切れとるな。」
「後でいーんちょうほーこくはともかく…倉庫汚い。これはまず整理整頓だね。」
「うぅ…やらんといかんか。」


しかも、倉庫の中はぐちゃぐちゃ。
慌ててたのか不精なのかは知らないが、これでは奥まで行けやしない。
ウンザリと言うように溜息を付く姿には言った。


「そんじゃ、オレも手伝おうよ。」
「ピヨ?…俺はやらんと探せんがお前さんの方仕事えぇんか?」


突然のの申し出に見開かれる目。
驚いた様に聞き返されるがはなんてことないように返す。


「オレは在庫確認に来ただけだからさ。それに今から休憩に入る所だったから。」
「そりゃ助かるが…休憩終ったら自分所の模擬店手伝わんでえぇんか?」
「今日はいーんの仕事しろってさ。倉庫の掃除はうんえーいーんの仕事の範囲内だから言っとけばだいじょーぶ。」
「お前さん運営委員なんか?」
「不動峰のね。それに1人じゃ大変でしょ?」


1人より2人の方が楽…それだけの事だとは思う。
そこに打算やなにか目論見があるわけでなく、大変そうだから手伝うそれだけの事。
委員の仕事が終わっている事と橘から今日は仕事が少ないから委員の仕事を優先しろと言われたこともあるのだが…
とにかくこれがどう言う事かと言えば…



「なら…頼もうかのう。」
「うん。」

無自覚にお人よしなのだ。



本人自覚はないし、の事ばかり言うがもかなりのものだ。
困ってる人がいたら助けるのが当然なんて特に考えてなくて本当に無意識の行動。
まぁ、結局本人わかっていないのだから仕方ない事だが。


「とにかくはじめよーか。」


とにかくこうして整理整頓を始めた2人。
乱雑に詰まれたダンボールやもの仕分けする所から始めたのだが…
作業は正直一向に捗らなかった。


「…なかなかはかどらんな。」
「あ〜、確かに…みんな適当に積みすぎ。置きすぎ。出しすぎ。」
(はぁ〜……暑いしだるいし、やっとれんのぅ…)


いつまでも終りそうにない作業。
篭った熱気もあり、他校生の方はもうやる気がなくなって来たようだ。
不意に思い出したように口を開く。


「…………なぁ、ちょっと用事があるんじゃ。抜けて構わんか?」
「ん〜?いいよ。オレ、片付けてるから用事済ませてきなよ。」


突然の男からの申し出。
だが、特には理由を聞く事無く了承する。


「んじゃ、頼むわ。」
「あいあいさ〜…って、事で続きやるか。」


去っていく後姿を見送った後、もう一度ダンボールと向かい合う。
そして、さっきまで2人でやっていた作業をは1人で始めるのだった。


「っと、これで仕分けしゅーりょー!後は箱を指定位置に入れてくだけだね。」


それからしばらく。
は何とか散らばっていた物たちの仕分けを終了していた。
だが、他校生はまだ戻ってきてない。


「用事長引いてんのかなぁ?」


彼が出て言ってから大体1時間が経過している。
そろそろ戻ってきてもいい頃なのだが、彼の姿はなくは未だに1人で作業を続けている。
倉庫の暑さもあり既に汗だくだが、ここで辞めるのは的にイヤだった。
やるからには最後まできっちりした方がいい。


「ま、元々こー言うのはオレたちの仕事だし?早めに終らせてお化け屋敷手伝いにいこぉ。」



そう思い作業を再開する
仕分けした箱やダンボールを一応午前中にメモした置き場所に置いて行く。


「これで終わり!…これで全部元に戻したよね。」


メモのお陰かこの作業はスムーズにいった。
最後の箱を棚に入れては周りを確認する。
さっきまで乱雑に箱が積み上げられていた床は今は奇麗になものだ。
そして、そのまま不動峰ブースに戻ろうとするのだが…


「さ、ブースにもど…あ、あれ?(やばい…これ…貧血?)」


ぶれる視界に不安定な足の感覚。
やばいと思った時は既に遅く、反転する視界と共に遠のく意識。
どさっと人が倒れる音が静かに響いた。



でも、そこには誰もいない。

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