伝えなくとも、某の傍にずっといるものだと思っていた。



〜もう2度と聞けない返事〜



いつの日だったか、佐助と共に来た忍。
名をといい、顔を狐の面で隠していたのが印象的だったのを今でも覚えている。
佐助曰く「感情が顔に出ちゃうから♪」らしい。

「忍とて某たちと同じ人間。感情をさらしてもよいではないか……」

忍の定めを理解していないわけではない。
けれど、自分たちを『主の道具』と称するのは些か気が引けるものがある。
そしてそれはも例外ではなく……故に某は気に入ったのだと思う。
面で隠されたその顔を見たくて、佐助や御館様に無理を言って、佐助とは別の…某付きの忍にしたのだ。

、と申したな。」

「はい。」

「今日、この今をもって、そなたは某付きの忍となった。異論はござらぬか?」

「いえ、何もありません。」

「では宜しく頼むでござるよ。」

それが、某との関係の始まりだった。
いつしか某の気持ちは佐助たちにおける信頼から愛情へと変わり、終始共に過ごしたいと願うようになった。
昔はそれが破廉恥だと思っていたのだが、を得た今では全然そんなことは思わなくなっている。
寧ろ、もっとと願う某の方が破廉恥のような気がしないでもないのだが。



と二人っきりになりたかったのだ。」


のその面はあまりよくない。それでは某がの顔を見れぬではないか。」


…誰よりもそなたをお慕い申しておるよ。」



そうしてに伝えれば、真っ赤な顔をしているに違いないだろうと容易に想像できる。
は…某と一緒で感性豊かな方なのだと。
それが何故忍に?と思う時は沢山あって、でもその経緯は語らなかった。



そんな某たちの幸せを引き裂いた事が起こる。
某が御館様、佐助と共に戦へ赴いている間に、が拷問にて殺されたとの知らせがあったのだ。
その知らせの主は……佐助が大切にしているくのいち、からだった。
それを佐助から聞いて、某はその戦で向かってきた兵を敵味方関係なく…全て、殺した。

…けれど某にその時の記憶はない。

早く城に帰って、の傍に行かなければという思いだけが、某を動かしていた。
その道中、佐助や御館様から言われたのは『いつもの幸村らしくなかった』という言葉だった。

そして城に近づくにつれ、歩行速度が上がるのが分かる。
その度に佐助や御館様に諌められたが、それでも某の気は焦るばかりで。
漸く城に帰還し、の場所を案内してもらい、某はその身体の傷を見て、その身体を抱き……


「何故…このようなことに……某がもっと早く気づいておれば…いや、此度の戦へ連れて行けばこのようなことには………」


……………………………………泣いた。
暫くして気を遣って離れていたのだろうから話を聞き会議の間に行けば、
そこには兄・信之殿の家臣が座っており、某を見て…笑った。

「幸村殿、此度の戦御苦労であったな。」

「いえ…兄上の使いが来ると分かっていれば、誰か残しておけばよかったと思ったまで。」

「いやいや、此方が急用で参ったのだ。」

「では、どのような用件で参られたのか、答えて頂けぬか?」

このような回りくどい問答は好まないことを知っているからこそ、相手は某が焦れるのを待っているのだろう。
だが、この幸村……そんなことさえ分からぬ器ではない!
だからこそ、相手の言いたいことをまっすぐに聞いた。

「では単刀直入に聞く。
 真田源二郎幸村、お前の部下から前田の家紋が見つかった。お前は前田と繋がっていたのか?」

それを聞きたいが為に…此奴は某を謀る為に…は…殺されたと言うのか?!
あまりにも…あまりにも惨すぎるではないか!!

「それに答える前にお聞きするが、そちらは…某の部下の持物を勝手に調べた、ということでござりますな?」

そう切り替えせば、向こうは詰まったような顔をして次第に赤くなっていく。
自分がや某についてどうこう言うよりも、まずはそちらが行った行為を恥じるべきではなかろうか。
多分佐助はどこかで聞いているのだろうと思い、某は愛用の武器を取る。
そこへ流石に危険だと感じたのであろう、佐助が割って入ってくる。

「はいはい旦那、ちょっと待って。それ以上は流石に大将に聞いてからにしない?」

それからでも悪くないでしょ?と言わんばかりの顔をする佐助。
某は早くこの件を片付けて、再度の下へと行きたいというのにだ。
佐助は某たちを御館様の下へと連れて行った。






「………して、疑わしきこととしてを尋問した、と?」

「相違ございません。」



「ふむ…。では改めて問おう。
 幸村からの話と合わせれば、そなたらは持ち主であるに了承を得ずに中を調べたのだな?」

事の経緯を説明し、御館様は改めて某と同じ質問をなされる。
流石に御館様の御前では黙すことは出来ず、………相手方は肯定の返事をした。

「あいわかった。では幸村、この件お前に処遇を任せる!」

「はっ!承知いたしました!」

某の返事と共に御館様は退出なされ、部屋には某と佐助、それに兄上の家臣の3人となる。
某は返事をしたままの状態ゆえ、2人がどのような態度をとっているかは正確には分からぬが…
多分佐助は厳しい顔のまま、目線だけで某たちを見ているのだろう。
あちらは……頭を下げたままでどのような顔をしているのかまでは判断はつかず…。

だが、今更どのような弁明を言ったとて、御館様の御前でを殺したと申したのが事実。
がどのような拷問を受けたかは分からぬが、……勝手に某の部下を探り、果てには殺したこと…
……貴殿のその身をもって後悔していただこう!





「……では、今からで申し訳ござらぬが、某の御相手をしていただけぬか?」

相手方に身体の向きを変え、未だ面を挙げぬ相手を見据えて問う。
無論あちらに拒否権はないのだが、断ればその場で即刻切り捨てるまで。

…そなたは今から行う行為をすれば真っ先に怒るのであろうが、某にとってはそれほどそなたが大切だったということ…


今更ながらに気づいてもらえただろうか……


…某はいつまでもそなたを愛している……某が向こうに行ったら、返事を聞かせてくれるか?」

いつか会えたその時に、もう一度この言葉を言おう。
そして…その時は、そなたの返事を…聞こう。



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