ある日、戦場で拾った1人の女の子。
それまで封印していた感情が一気にあふれ出したのが分かった。


けれど……もう、その女の子は存在しない。



〜その存在だけで癒された〜



俺がと出会ったのは、とある村の名残。
大将より命ぜられた任務の帰りだった。
烏から、通り道の村が全滅したと聞いて、その確認に行ったのが運のツキだった。

「あっちゃ〜…こりゃまた惨いこって。」

一面に広がる村人の死体と、焼け焦げた臭いと、生臭い血の臭い。
今まで平和な時間を過ごしてきたこの村ではありえない光景だったことだろうと。
村の隅々を回り、本当に全滅しちゃったんだと確認を終えたとき……に出会った。

「ちょっと、そこのお嬢ちゃん…なにしてんの?」

いかにも今から殺すよ?みたいな感情を持って話しかけてみたけど、死というものが受け入れられてないのか、
はたまた感情が鈍いのか…俺様を目の前にして怯える様子なんて微塵もなかった。

「ひょっとしなくてもお嬢ちゃんはここの村の子?」

「うん…」

「じゃ、他の村に親戚とか家族とか…とにかく行く場所ある?」

「…知らない。はここから出た事がないから…」

「ふーん…」

多分好奇心からだったんだと、今更に思う。
あの旦那達の下についてから、忍びらしくないなぁ…なんて思ってたけど。

「じゃ、俺様のところ来る?」



それに多分…生きる術なんて知らないだろうから。


















城に帰って、通り道の村が以外全滅だったこと、それからここで保護することを大将に掛け合ってみた。
大将は俺を珍しい物でも見るような感じではあったけど、俺の傍に置くのであれば、と気前よく了承してくれた。

そして…は俺付きの忍、くのいちとして常に傍に置いた。
自身少し動作がゆっくりしている為に、本当は忍としては向いていないことは分かってはいたが、俺の傍に置くという条件下だったから仕方がない。


それに実際、に色々忍の仕事を教えてはみたけれど、何もかも失敗で。
当然部下からは、に対する苦言や罵倒も多く『何も出来ない。お情けで置かれるくのいち』と言われているのも知っていた。
それでも俺の傍にいるだけでよかったのに、武器の手入れと………唯一実践で使える術を1つだけ覚えた。


『紫毒霧気』


術者をも犯す猛毒の霧。
こんな危険な術を覚えたに、俺は何回も風上に立って使うように教えた。
そうすれば、毒が身体に回るのは遅いから…と。
分かった…と俺を見上げてふわりと笑う
その時、俺の心が軽くなった。
それと同時に守らなければ、とも。

それからを戦場に出すことは少なくなった。
守らなければと言うのもそうだが、一番の理由はさっきの毒の術。
あれをが使えると知っているのは俺と旦那と大将と俺と同期の忍のの4人だけ。
それに…は俺を唯一無二としているから、俺の言葉、特に命令は絶対としている。


だから、俺が1人で任務をこなしている間も大丈夫だろうと高を括っていたのが失敗だった。










それは、やっと任務を終えて、陣に帰ってきて真っ先にの顔を見ようと陣内を回るが、一向に姿が見当たらない。

「あれ?はどこ?」

「あぁ、あれなら今頃みなの武器の手入れでもしておるのでしょう…長…」

部下の1人に聞いてみれば、そう言うから武器庫を覗いても、ましてや近くに設置された修練場を覗いてもいない。
不思議に思ったけれど大将への報告も遅くなるとヤバいなぁ、なんて片隅で過ぎって……
先に大将への報告を済まそうかと歩いていたら、1羽の鳥が舞い込んできた。
その鳥は異様な程の血の臭いが染み付いていて、足には布が巻かれている。
何の報告かと、足に括られた布を外せば、鳥は森の方へと飛んで行く。

そして、その布を広げてみれば『きしゅう てき まだいる』とひらがなで書かれた血文字。
こんな字を書くのは、俺が知っている……ただ1人の…



っ!!」



俺はその場から一気に木の上へと飛び、鳥が飛んでいった方向へ飛んで走る。
奥へ奥へと進んでいくと、紫の霧が少しずつ現れ始め、次第に濃くなっていく。
そして、一番強い場所に辿り着いた時………がぼろぼろになって息絶えていた。
…けどその表情は身体と違って、幸せそうだった。

「何で死ぬのに笑ってんの?……バカじゃん…」

の身体を抱き、走りながら呟く。
少し視界が霞んでるけど、そんなものは邪魔にはならなくて。
慣れた足で陣へ戻ると、そのまま大将のいる本陣へと入り、焦る旦那をそのままにが書いた布を手渡した。

「なんと!幸村っ、今より部隊を分ける!至急集合するよう伝えよ!!」

「承知いたしました、御館様!!」

旦那は走っていって、この場には俺と大将だけになる。

「佐助、のことは……」

「分かってますって。いつかはこういう時がくるって覚悟はありましたから。」

大将は俺に近づいて、の頭を優しく撫でる。
悲しんでいる暇なんてないと分かってはいても、の殺され方はあまりにも酷くて。
大将は「処遇は佐助に任せる」と言って、その場を後にして行った。



「…今なら、を殺された旦那の気持ち……わかるなぁ………」

腕の中のに言うでもなく、呟いた言葉は空気に消える。
俺様が大切にしていたをこんな形で合わせてくれたんだ。
だから、俺は俺のやり方で味合わせてやろうか…。
俺はの身体を陣の外の見えないところに置き、闇に溶けるように旦那の後を追った。





程なくして物見とに「長の命だ」と言って戦場に向かわせたヤツが判明した。
まぁ旦那が真田忍隊を召集したからだし、その中でも俺様の顔を見て焦ったヤツがいたからなんだけど。

「さぁて、どうやって味合わせてやろうか。」

「佐助……」

「俺、旦那の気持ち…今更ながらによく分かったよ。でもね、旦那に口出す権利はないから。」

「しかし、それでは…」

「旦那……大将から、この件の処遇は俺に任せるって言われてんの。分かったら邪魔しないでくれる?」

そう言えば旦那は渋々納得して、この場を俺に任せてくれた。
…さぁ、ここからが俺の忍の長としての本領発揮をしないとねぇ?



「まずは…先の物見。ここに残って。後は旦那の指示に従ってくれ。」

俺が旦那に目配せすると、旦那がはっとしたように声を掛け、忍の多くはそれに続こうと移動を開始する。
けれど、残らせるのはこいつらだけじゃない。





「それと、に戦場に行くよう指示したヤツも残れ。」


その時、移動しようとしていた忍たちの足が全員止まる。
皆がというわけではないが、俺の顔を見る者、ひそひそと話し合う者、俯く者……
反応は様々だったが、ただ1人、違った反応があった。

「アンタ…か。」

怯えた反応を示したのは、仕事上かなり信頼を寄せていた部下だった。
そつなく仕事をこなし、仲間内でも多大な人望があったのは確かだ。
それが何故こうなったのか。

その理由はただ1つ、………への不出来に対する嫉妬だ。


「これで全部…か。」

残らせたものを横一列に並べ、その顔を見ながらどんな処遇にしようか未だ悩んでいたが。
今し方まで抱いていたの傷跡がふっと過ぎる。
…そして、迷うべくもなく処遇が決定した。

「あ、あの…長…」

無言に耐えられなくなったのだろう、部下の1人が口を開く。
俺はそれと同時にそいつの首を………………刎ねた。
そいつの両隣の奴らは、最初何が起こったのか分かってなかったが、刎ねた首が転がったことで小さく悲鳴が上がる。


「全く…上の言うことは聞くもんでしょ?」

俺は笑って呟いて、残った者に次の句を告げる。

「お前たちの処遇だけど……今この場で死んでくれる?」

その言葉に全員が目を見開く。
まさかこんな命令が下されるとは思ってもいなかったのだろうしね。

「そ、それはあまりにも…」

「あまりにも、何?俺がを大切にしてたのは知ってるでしょ?
 それを勝手に動かして殺したんだから、それ相応の罰だと俺は思うけど?」

そう言ってやれば、誰もが口を紡ぐ。
事実、俺はを大切にしてたし、がいたから任務もいつもより早く終わるようにやってきた。
それが今回1人で行かなければならず、その間に起こった出来事。
…許せるはずがなかった。

「あぁ、死ぬ前にどうやってを戦場に出したのか聞いておかないとね。
 因みにこれ、長としての命令だから沈黙は許さないよ。」

そして次々と語られたことは、俺の中でとてつもなく許せないことで。
最後の1人が言い終わった瞬間、横一列に並ばせた部下の全ての首を刎ねていた。



「真実を知ってお前が戻ってくるわけじゃないけど…このくらいは許してよ…」

がいるであろう月に向かって呟き、戦場へ身を投じる。
以前と変わらないことだけど、ちょっと違うのは、もう……癒してくれる存在がないこと。

「俺様は、どこまで疲れればいいんだろうね…」



...end

inserted by FC2 system