これが最後で精一杯の…
『あなたのためにできること』
気が付いたらは一人だった。
お父さんもお母さんも友達も村のみんなもいなかった。
…みんないなくなった。
『逃げなさい!!』
『母さん達もすぐに追うから!』
真っ赤な炎の中と人の叫び声と血の臭い。
そんな中でをお父さんとお母さんは裏山に逃がしてくれた。
必ず行くから隠れて待っていなさいと…
―でも、二人が来る事はなかった。
夜が終わって朝が来てまた夜が来て…
それを三度くらい繰り返してもお父さんとお母さんはやって来ることはなくて。
寂しくて我慢できなくて村に戻ったけれど…そこにはもう何にもなかった。
あったのは焼けた家や田と沢山の死体。
『お父さん…お母さん…どこ?みんな…なんで動かないの?』
呼んでも揺すってもみんな誰も反応してくれない目を開けない。
みんなみんな動かなくって…確かにあの日まではみんないて笑っていたのに…
でも、今は誰もいなくてだけ…涙は出なかった。
ただ誰もいない場所に立ってた。
『ちょっと、そこのお嬢ちゃん…なにしてんの?』
そんなに声をかけて来た人がいた。
綺麗な夕日色の髪に色んな緑の混ざった着物を着た…血の臭いがする人。
ニコニコ笑っているけれど、とっても冷たい目をした人。
でも、なぜか怖くはなかった。
『ひょっとしなくてもお嬢ちゃんはここの村の子?』
『うん…』
『じゃ、他の村に親戚とか家族とか…とにかく行く場所ある?』
『…知らない。はここから出た事がないから…』
『ふーん…』
なんでその人がに声をかけたかはよくわからない。
少なくとも誰もいない場所で立っていたが可哀相とか言う理由ではないと思う。
その行動が気まぐれなのかどうかはにはわからないことだけど…
『じゃ、俺様のところ来る?』
―居場所をくれた…それが真実。
その日からその人は…長はの全て。
長はに居場所をくれて傍に置いてくれた。
―こんな役立たずなのに…
知ってるのは役に立ってないって。
長はを自分付きのくのいちとして使ってくれてるけど…違うの。
は密偵も暗殺も何かも不得手で、出来るのは武器の手入れぐらい。
術だって上手く出来ないし、実戦にだって立った事なかった。
『何も出来ない。お情けで置かれるくのいち。』
他の人がをそういうのは知ってる。
そして、それは事実…は何も出来ない。
長の役に立ちたいのに…
「だって…長は…の唯一だから…」
あの日からずっと長はの全て。
長の言葉がの世界で絶対なんだよ。
、長の為ならどんな事だって頑張るよ。
長の為なら何だって出来るよ。
『…長から命令だ。ある場所に行って欲しい。』
だから、長の命令は絶対。
それはが長の為に出来る事だから…
はその日も迷わず頷いたの。
『あれ?はどこ?』
『あぁ、あれなら今頃みなの武器の手入れでもしておるのでしょう…長…』
―それが罠だとも知らず。
言われた場所に行ってみると敵と交戦する仲間の姿。
ただ行けと言われただけだから驚いたけれど、すぐには助太刀しようと飛び込んだ。
でも、それは酷く浅はか行為で……その時にはすぐに気づくべきだったんだ。
みたいな戦が下手なくのいちが助太刀に行かされるわけがないって。
「なんだこれは…これが本当に忍なのか?」
「一応、これは真田忍隊の紋ですから確かかと…」
「それにしてはあまりに弱すぎるぞ。」
十数分後…は敵の前でぼろぼろになって転がっていた。
体中には刀傷だらけでくないが刺さった右足はもう動かないし、左目も潰れてもう見えない。
裂けた腹部からは血が溢れて…咳をすれば肺をやられたのか血の色が口を伝う。
苦しい痛い痛い…胸の奥が痛い。
「まぁ、所謂捨て駒用なのでしょう。」
手助けに入ろうとしたを敵方に突き飛ばした手。
それは同じ忍軍に所属する忍で…彼らは笑いながら消えた。
はそれでもしんがりの務めを果たそうと思ったけれど…二十人程の敵の多勢に無勢。
動けなくなるまでさほど時間を稼ぐ事など出来なかった。
「だが、他の者は陣地に戻られてしまった…すぐに他部隊にもつ耐えねば。」
「そうだな。このままではせっかく奇襲をする作戦が失敗してしまう。」
「まだ敵は我らの事しか気づいていないようだから大丈夫だろうが…」
このままでは本陣が奇襲を受けてしまう。
さっきの人たちは置いてすぐに去ってしまったから奇襲の事実をきっと知らない。
もしもそれが成功してしまったら、みんなは…長はどうなってしまう?
長は強いけれど…お父さんとお母さんの村のみんなのようになってしまったら…
「だ…めぇ…」
それだけは…それだけはダメなの。
ここでこの人たちを止めなければ…殺さなければと思った。
唯一動く手で印を結ぶと紫の霧がたちの周囲を包む。
「これは…ぐっ…」
「ど、毒だ!」
それは毒の霧はの唯一ちゃんと発動できる術。
少し吸っただけでそれはあっという間に体を回り死にいたる毒。
あまり強力すぎて…術者すら侵す毒。
「っ…ぅ……」
それでもは出来損ないでもくのいちだから。
武士よりはほんの少しだけだけど毒の耐性を持つから。
這いずって少しその場から離れると持っていた手拭に流れる血で文字を書く。
『きしゅう てき まだいる』ひらがなだけのそれを長ならきっとわかってくれる。
はそれを控えていた鳥を呼び託した。
「つた…えて…長に……」
早く…早く長に伝えて…
今ならばきっとまだ間に合うから…
の命はここで潰えるけれど、長の命が消えないように…
飛び立つ姿にただ祈った。
「長……お…さ……」
血が抜けて毒が回った体。
あの時助けてもらったのにごめんなさい。
はもうダメみたいです。
「…おさ…」
でも、は長と一緒に入れて幸せだったよ。
長といれたからずっと幸せに笑って入れたよ。
あのね、長…
「さすけ…」
は長を愛してたよ。
だから、長の傍で生きれては幸せ。
長の為に命を使えるならは幸せなの。
だって、これが…
あなたのためにできること…でも、本当はもう少し傍で生きたかった。
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