一緒に住み始めて早1ヶ月。
流石に他人行儀な呼び方って、もうそろそろおかしくなるよね?



僕らの住む街―The Reckless GIRL & Unfortunate BOYS―
〜そろそろ他人行儀な呼び方を卒業しましょ?〜



砂城、もとい伊達となって約2ヶ月が過ぎました。
大学も始まって、新しい友達も出来て、例のサークルにも精を出してますv
あとは………夜の仕事も、以前よりは少なくなったけどまだ続けてます。


――ただ、2人の名前を呼ぶときに言われてることが1つ。

…。そろそろその呼び方止めねぇか……」

「まぁ私はしょうがないとしても、政宗様への呼び方は改められた方が宜しいかと思います。」

私は未だに『政宗さん』『片倉さん』と呼んでいること。
それが2人(特に政宗さん)には気に食わないみたい。
まぁ家族だし、政宗さんはお兄ちゃん(一応)だし気になるのは分かるけど。

「聞きわけが悪いとは言わないけど、この年で気軽に『お兄ちゃん』なんて呼べるわけないでしょ?」

小さい…物心つく前ならいざ知らず、もう20も間近な私が、半年前に出会った人たちと一緒に暮らして、尚且つ『お兄ちゃん』なんて…。
想像しただけでぞっとするわ!
…………それはむこうだって同じだとは思うけど。

「そ、それもそうなのですが……」

「小十郎…(怒)」

政宗さんの怒りにちょっぴしたじろぎつつ、今日は皆で呼び名を考えることになりました。










―――――で、現在リビングのテーブルで考えてます。
私の隣には政宗さんで、向かいには片倉さんが座ってるの。
それでさっきから考えてはいるんだけど………





『お兄ちゃん』なんて今更恥かしくて言えない!(というか人前でも言いたくないわね)



『お兄様』…………私的にありえないわ。(っていうか、私が社長令嬢だってことさえまだ信じられないくらいよ!?)



『兄さん』最初はこれでいいんじゃないかって思ってたんだけど、政宗さんに却下された。(この呼び方で何か嫌なことでもあったのかしら?)



『政宗』―――たった一瞬だけど、2人から睨まれたわ。





だったらどんな呼び方ならいいのよっ、って珍しく怒鳴り口調になっちゃった。
ちょっと呆気にとられてたけど、やっぱり2人だって思いつかないんじゃない!!
これじゃ話にならないわねっ!

とふと時計を見れば、もう仕事の準備をしないといけない時間。
私は慌てて席を立ってリビングの扉に手をかけて「…の……ばか…」って呟いた瞬間。



「待て!」



弾かれたように叫ぶ政宗さん。
これには私も片倉さんもビックリしちゃって、私なんてその場で固まっちゃったくらいだもの。
振り返った視界に映る真剣な顔の政宗さん。

「今、何て呼んだ?」

表情は明らかにもう1回言え、ってオーラまで出してるんだけど。
私だって殆ど無意識に呼んだから、ついさっきのことでも覚えてるわけないし。

「…まさか、どう呼んだか覚えてないってんじゃねぇだろうな?」

………えぇっと…まさにその通りなんですけど…
と明後日を向いて苦笑いしてたら、じと〜っと感じる視線。
しょ、しょうがないでしょっ!そんな無意識の行動なんて覚えてるほうがおかしいんじゃないの?!

「ま、まぁ政宗様…そのように剣呑な雰囲気では、思い出せというのは酷かと…」

「小十郎は黙ってろ。
 …、もう一緒に住んで1ヶ月経つんだぜ?
 そろそろ他人行儀な呼び方は止めてもらわねぇと、周りが不審がる頃だ。」

「それは分かってるんだけど、他にいい呼び名がないんだもん…」

「だからさっき言ったのをもう1回言えって言ってるんじゃねぇか。」

「あんな無意識のこと覚えてるわけないでしょ?!」

私は仕事の時間が刻一刻と迫ってるのも忘れて怒った。
まぁ…それほど覚えてないのを思い出せ、って強制的に言われたからなんだけど。
あんまりにも酷くない!?

「あぁっ!もう急がなきゃ仕事に遅れちゃう!!」

ふと視界に入った時計はもう5時を差してて。
いつもはもうちょっと遅い時間なんだけど、今日はちょっと特別な用事があるんだ。
だから念入りに化粧しないといけないのに…どうしてくれるのよぉっ!!

「Wait!、まだ話は終わってねぇ!!」

「ちょっ!離してよ……まさにぃ!!」

「っ…それだ!!」

はい?
私、今腕を掴まれて剥がすのに夢中でなんか叫んだけど、それのことかしら??
と呆気にとられる私を余所に、政宗さんはニヤニヤしてる。

、今の『まさにぃ』って呼び方で呼べ。いいな?」

「は?はぁ……うん。」

「じゃ早速呼んでみな?」

まだ腕を掴んだまま私を覗き込む。
これは絶対呼ぶまで離してはくれないわね。
…う〜……でも、今呼ぶのは……は、恥かしい…///

「どうした?」

「う〜…………」

段々と自分の顔が俯いてくのが分かる。
呼ばなきゃいけないのは分かってるんだけど、恥かしさが先行してて言えないのよ///
あ〜、とかう〜、とかしか口から出なくて、いざ呼ぶとなると覚悟って結構いるものなのね。

「言わないとずっとこのままだぜ?……。」

言いたいけど言えないってのが分かってるから、態と私の耳元で囁いてくるの。
それもまた恥かしさを増長させてるんだけど…って絶対確信犯だよね、コレ。
あぁ〜…もう!こうなったら自棄よ自棄!!


「ま、…さにぃ…離して…っ///」


顔が熱くて真っ赤になってると思う。
それほど改まって言わされるとは思ってなかったから余計に…ね。
なのに……

「Ah〜?もっとハッキリ言ってくれねぇと、聞こえないんだが?」

分かってて…分かっててこういうこと言うんだから、ほんっと意地悪いっていうか捻くれ者っていうか!
こんなときにいい言葉が思いつかないなんて、私もまだまだね!!
でもこの現状は打破しないと先に進めないし。



「だから離してって言ってるでしょ!!まさにぃのバカっっ!!!」



「Very good.……………バカは余計だがな。」

そうやっていとも簡単に手を解放してくれた。
そして慌てて時計を見たら、あれから既に20分近く経過してる。

「やだっ、今日遅刻したらまさにぃの所為だからねっ!!」

びしっと指を差して言った後、猛ダッシュで部屋に駆け込んで化粧して。
普段なら何かしら食べてから行くんだけど、今日はそんな余裕もない。
定位置にあるバッグを取って玄関を出れば、目の前には車が映って、中には片倉さんが待ってて。

様、小十郎が近くまで送らせて頂きます。」

この人なりのお詫びのつもりなんだと思う。
私は遠慮なく車に乗って、仕事先まできっちり送ってもらったわ。
そのおかげで遅刻はせずにすんだけど、顔がまだ赤かったらしくって店の皆から突っつかれて大変だったけどね。
































そう言えば、どうして片倉さんは『こじゅぱぱ』なのかって?
その理由は至って単純よ?

「私ね、パパって呼んでみたいんだけど、その対象が社長さんでしょ?
 だから……片倉さん、『パパ』って呼んでもいい??」

「え、あの…それはちょっと……」

「いいんじゃねぇか?小十郎だって新鮮に思えるかもしれないぜ?」

「政宗様!」

「ねぇ〜パパって呼んじゃダメ??」

「呼んじゃダメというか…一回りほどしか違わないのですが……」

「小十郎、諦めて呼んでもらえ。」

「未来の社長もこう言ってることだしv―――ねっ、こじゅぱぱ♪」

「お、なかなかいいんじゃねぇか?」

「でしょでしょ?保護者代わりなんだし、別に違和感ないと思うんだけど?」



『保護者代わりは否定しませんが、この小十郎…何やら犯罪者になった気分です…』





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